研究課題
好熱性紅色光合成細菌Thermochromatium(Tch.) tepidumは、他の紅色細菌よりも低エネルギーの近赤外光を利用して光合成を行うことが可能である。この異常な特性は、光捕集1(LH1)複合体から光合成反応の心臓部である反応中心(RC)へのエネルギー勾配を遡るuphillエネルギー移動によるものであり、この現象にはCa2+が密接に関与していると考えられる。本研究ではTch. tepidum由来RCの構造に新規に見出されたCa2+に着目し、野生型、Sr2+置換型、キメラ型LH1-RCの全反射吸収赤外分光(ATR-FTIR)、共鳴ラマン分光、超高速分光、熱量分析により、RCの構造安定化、エネルギー移動、電荷分離反応、キノン分子を含めた電子伝達反応におけるCa2+の役割、並びにTch.tepidum由来LH1-RCにおけるuphillエネルギー移動の分子機構を明らかにすることを目的としている。今年度は(1) RCタンパク質の構造安定化におけるCa2+の役割検証、(2) Ca2+によるRCスペシャルペアの分光学的特性変化の解析、(3) LH1からRCへのuphillエネルギー移動の直接観測、(4) キノン分子の検出および移動経路のモニタリングを軸に研究を進めている。(1) に関しては、RCの精製収率が低く、収率の向上、ならびに他の手法による詳細な解析を検討している段階である。(2)に関しては概ね目的を達成しており、Ca2+とタンパク質サブユニットの協同的な作用により、反応中心の吸収特性が制御されていることを見出した。(3)については測定条件のスクリーニングを終え、異なる種間でuphill型エネルギー移動に関する興味深い知見が得られている。(4)では、装置の立ち上げ、測定条件の最適化を行い、キノン分子の変化を捉えることに成功した。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、Tch.tepidumのRCに新規に見出されたCa2+の構造的、機能的役割を物理化学的手法により解析し、このCa2+が密接に関与するuphillエネルギー移動の分子機構ならびに光合成電子伝達反応を担うキノン分子の移動経路を明らかにすることを目的としている。具体的には、(1) RCタンパク質の構造安定化におけるCa2+の役割検証、(2) Ca2+によるRCスペシャルペアの分光学的特性変化の解析、(3) LH1からRCへのuphillエネルギー移動の直接観測、(4) キノン分子の検出および移動経路のモニタリングを軸に研究を進めている。(1) に関しては、RCの精製収率が低く、他の手法による詳細な解析を進めている段階であるが、(2)に関しては概ね目的を達成している。(3)についても測定条件の最適化を終え、異なる種間で興味深い結果が得られている。(4)では、装置の立ち上げ、測定条件の最適化を行い、キノン分子の変化を捉えることができるようになった。これらの経緯を踏まえ、本研究課題は概ね順調に進展していると判断した。
「現在までの進捗状況」で述べたように、本研究は、4つのテーマを軸に展開している。(1) RCタンパク質の構造安定化におけるCa2+の役割検証については、RCの精製条件を最適化し、赤外分光測定や熱量分析を行う予定である。(2) Ca2+によるRCスペシャルペアの分光学的特性変化の解析に関してはほぼ測定が終了したため、(4)の結果と合わせて投稿論文を執筆する予定である。(3) LH1からRCへのuphillエネルギー移動の直接観測については、未だ検証していない条件の測定や、再現性を確認する。(4) キノン分子の検出および移動経路のモニタリングに関しては、同位体置換を組み合わせ、キノン輸送の詳細な解析を行う予定である。
当初購入予定であった物品が年度末特価で販売されており、差額が生じたが、消耗品類は十分な備蓄があったことから、次年度に有効活用するのが良策と判断した。
必要に応じて、不足が生じた消耗品や試薬類に使用する予定である。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
J. Phys. Chem. B
巻: 120 ページ: 12466-12473
10.1021/acs.jpcb.6b10068
Biochemistry
巻: 55 ページ: 6495-6504
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http://www.edu.kobe-u.ac.jp/ans-bpc/