研究課題/領域番号 |
16K07297
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
渡邉 誠也 愛媛大学, 農学研究科, 教授 (90379032)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | アコニターゼX / ヒドロキシプロリン |
研究実績の概要 |
本年度は、以下の3つの成果が得られた。このうち、①②は論文発表を行った(Watanabe et al., J. Bacteriol. 199(16). pii: e00255-17)。 ①アコニターゼX(AcnX)には、単一ポリペプチド鎖からなるタイプIと、大小2本ポリペプチド鎖からなるタイプIIが存在する。これまでの機能解析はタイプIに限られていたが、本年度は窒素固定細菌Azospirillum brasilense NBRC 102289の持つタイプII型AcnXに注目した。この遺伝子がトランス-4-ヒドロキシ-L-プロリン(T4LHyp)代謝遺伝子クラスターからは遠く離れた位置にある。大腸菌を用いて発現させニッケルアフィニティカラムで精製した組み換えタンパク質を用いた解析の結果、タイプIと同じシス-3-ヒドロキシ-L-プロリン(C3LHyp)脱水酵素として機能することを明らかにした。 ②A. brasilense NBRC 102289が、T4LHypとT3LHypだけでなく、C3LHypを唯一の炭素源とする最少培地でも良好に生育することを見出した。これはC3LHypの生物学的分解の世界で初めての報告例である。定量PCRの解析の結果、AcnX遺伝子はC3LHypで誘導され、その破壊株では生育能が消失したことから、C3LHyp代謝における重要な生理学的意義が証明された。また、同一の還元酵素の関与するT3LHyp・D-プロリン・D-リジン代謝とも密接にリンクしていることが明らかとなった。 ③いくつかのタイプI酵素を用いて、結晶化を試みた。この結果、アグロバクテリウム菌由来のもので良質な結晶を得ることに成功した。この結晶は精製酵素と同様に茶色であり、活性中心に鉄イオンが保持されたホロ型であると考えられる。現在は、大型放射光施設SPring-8でX線回折データ収集を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまでのタイプIに加えタイプIIの機能解析に成功したこと、そしてその機能がC3LHyp代謝に実際に関わっていることを証明できた点が大きい。細菌由来のタイプIIはアミノ酸配列の相同性からみると実はタイプIに近いので、同じC3LHyp脱水酵素活性を持つことは自然であるといえる。これで、機能が分からないものは古細菌の持つタイプIIのみとなった。AcnXの持つC3LHyp脱水酵素の触媒機構を明らかにするため、類推した鉄イオン結合部位や基質結合部位に対する部位特異的変異体を多数作製し解析を行ってきた。しかしアミノ酸配列に基づく試みには限界があることから、立体構造決定が不可欠であると考え、当初計画にはなかったものの結晶化に着手し予想以上の速さで良質な結晶を得ることができた。最終年度である次年度には世界で初めてAcnXの構造を決定できるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
予想以上の進捗により申請当初の計画はおおむね達成の見込みとなったことから、最終年度はAcnXのX線結構構造解析に全力を挙げる。PDBにはAcnXとアミノ酸配列の相同性を示す構造は登録されておらず、分子置換法は使えないと考えられる。そこで、活性中心の鉄あるいはセレノメチオニンを用いたSAD法のいずれかを用いる。すでに両方の方法に使うことのできる良質な結晶を得ていることから実験には支障がなく、ネイティブ構造については間違いなく決定できると考えている。結晶が茶色であることからみて活性中心の鉄は保持されている。前年度に、京都工芸繊維大の田嶋邦彦教授と共同でさらに精度の高い電子スピン共鳴(ESR)測定を行った。立体構造がこうした分光学的データをよく説明できるかどうか検証する。さらなる反応機構の解明のために、天然型酵素と阻害剤(pyrrole-2-carboxylate)の共結晶、あるいは不活性変異型酵素とC3LHypとの共結晶の構造解析を行う。いまだ機能未知の古細菌由来タイプIIについては、いまのところ機能解明の手掛かりが得られていない。ただ、細菌の中にもタイプIではなく古細菌由来に近いタイプIIを持つものがいることが分かった。これらの近傍遺伝子の機能からそのヒントが得られるのではないかと考え解析を行う。
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