研究課題/領域番号 |
16K07298
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
野村 一也 九州大学, 理学研究院, 准教授 (30150395)
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研究分担者 |
山本 健 久留米大学, 医学部, 教授 (60274528)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 先天性グリコシル化異常症 / CDG / 生殖系列異常 / 卵母細胞 / 細胞分裂 |
研究実績の概要 |
近年、病気の原因として糖鎖遺伝子の同定例が激増し、糖鎖生物学者が医療機関にリクルートされる時勢となっている。私達はヒトの糖鎖遺伝子異常による疾患の治療、研究に役立つように、線虫とヒトの糖鎖遺伝子を相互に解析する研究を進めてきた。 まず最初に、私達が公開しているC. elegans GlycoGene DataBase(CGGDB)の改良を済ませた。掲載全遺伝子についてOMIM、GWAS、RNA-Seq databaseなどを参照し、線虫での研究が容易なヒト疾患関連糖鎖遺伝子リストを作成し、databaseの日本語化、GWAS dataの追加、遺伝子名のHGNC表記への統一を行い、2016年6月に公開した。 ヒトの病気に関わる糖鎖遺伝子の解析実験は順調に進行し、①ヒトの先天性グリコシル化異常症の原因遺伝子DPAGT1の線虫オーソログがalgn-7であることを確定し、線虫での表現型(初期胚細胞分裂異常、浸透圧異常、卵母細胞の分裂異常)等を発見、この異常の原因となるN型糖鎖付加タンパク質遺伝子をdatabase検索と実験で確定した。②同様の解析をコンドロイチン合成酵素でも行い短指症や細胞分裂異常の分子メカニズム解明の手がかりを得た。更に③線虫に硫酸化コンドロイチンが存在することを発見し硫酸化酵素を同定、酸化ストレスとの関連を指摘し論文発表した。④配偶子幹細胞ニッチの維持に不可欠なGPIアンカー型タンパク質も同定し、⑤acetyl CoA transporterの欠失とヒトの病気との関連も発見、⑥ヒトのO157感染モデルとして作製した線虫を利用して毒素の作用で変動する遺伝子群を同定し、発症と予防につながる手がかりを得て、RT-PCRでの確認を済ませた。その他、N型糖鎖合成遺伝子のKO株も二株取得し解析を終えた。以上の研究成果の一部は学会発表し②~⑥については論文投稿準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CGGDBのデータベース改変、公開は予定通り終了し現在も改良中である。今後はより緊密なメンテナンスが可能な自前のサーバーによる公開を行うため、サーバーの移行を検討中である。ヒトの糖鎖遺伝子異常症のモデルとしてDPAGT1,GPI-アンカー型タンパク質の異常による配偶子形成の激減に関与するタンパク質の同定などはCRISPR-Cas9による遺伝子破壊実験も利用しつつすすめており近々論文発表の予定である。またヒトのO157感染モデルとして作製した線虫への毒素感染後のDNAマイクロアレイデータの解析も終えており、RT-PCRによる確認結果も含めて論文発表予定である。またコンドロイチン合成酵素の異常がヒトでは短指症をひきおこすのだが、その線虫モデルとして線虫の雄の生殖器形成異常が役立つことをはじめて見いだし、論文発表予定である。また2016年にはJ. Biol. Chem.誌に、従来線虫に存在しないとされていた硫酸化コンドロイチンの存在とその合成酵素を初めて明らかにし、それが酸化ストレス防御と関連するという論文を発表した。さらに配偶子幹細胞ニッチの維持に不可欠なGPIアンカー型タンパク質の同定も順調にすすみCrispr-Cas9でのKO株取得と解析もすすんでいる。またacetyl CoA transporterのKO株の解析も進み、新たなヒト疾患遺伝子を同定できた。
以上の線虫でのヒト糖鎖遺伝子病のモデル研究の成果によって、さまざまな新たな遺伝子が同定されており、各遺伝子の線虫でこそ可能なネットワーク解析と実験によって画期的な研究のブレイクスルーがもたらされることが確信できた年度であった。ただヒト化線虫の作製については最も有効な遺伝子とその解析結果の評価について慎重に検討を進めているため、まだ実施していない。以上の進捗状況から、おおむね順調に進展していると自己点検評価した次第である。
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今後の研究の推進方策 |
ヒトの糖鎖遺伝子の異常アレルは最新の見積によるとアメリカ合衆国の人口の20%を占めるという。ゲノム配列解析コストの低減に伴い、病気の原因として糖鎖遺伝子が見つかる例が激増しており、NGLY1遺伝子について大いに注目されたように糖鎖生物学者が多数病院にリクルートされる時代になっている。私達はヒトの糖鎖遺伝子異常にともなう疾患の治療、研究に役立つことを目標に線虫とヒトの糖鎖遺伝子を相互に解析する研究をすすめてきた。今後の推進方策としては: ①研究項目の殆どについて、順次、論文を発表する予定である。 ②現在まで得られた研究成果で新たに同定された、異常な表現型に関与する遺伝子について阻害実験やヒトオーソログのデータベース解析、ヒト疾患データベースでの解析などを続けて、発症に必須のメカニズムの解析の手本となる研究を実施する予定である。新たに同定した遺伝子には、ごく最近糖鎖遺伝子異常疾患の原因と同定されたものも多数含まれており解析中である。③さらに、糖鎖遺伝子の多くが、生殖幹細胞と初期胚の細胞分裂の進行に不可欠であることが本研究で確実になった。細胞分裂と糖鎖遺伝子の関連についての大規模研究の基礎になるように研究をすすめていくつもりである。これに関しては野村らが以前発表したコンドロイチン合成酵素が細胞分裂制御に関わっているという研究(Nature, 2003)についても、分子メカニズムの解明のてがかりが得られたので研究を進める。④現在まで見いだした糖鎖遺伝子とその関連遺伝子をもとに、これらの遺伝子の相互作用ネットワーク解析を進めて、糖鎖遺伝子疾患の発症メカニズムについての画期的な成果が得られるように研究を継続する方針である。⑤こうした成果を集約し、同様の研究が簡単に実施できるように、CGGDB databaseを改良し、自前サーバーで公開して改良をさらに加速する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究成果の論文投稿が会計年度内には行えなかったこと、および次世代sequencerで得られたデータの解析用のコンピュータスペックの検討に時間を要したため会計年度内に改造用の部品の発注ができなかったことなどから、次年度使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
論文投稿費用および、次世代シークエンサーから得られるデータ解析と自前でのCGGDB(データベース)公開用サーバーの構築のための費用にあてる予定である。
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