研究課題
本年度は研究成果の公表のためのデータ解析(統計解析、文献調査、バイオインフォマティクス解析など)と論文作成、投稿を中心に研究をすすめた。本研究の目的は線虫C. elegansをモデルシステムとしてヒトの糖鎖遺伝子異常症のメカニズムや治療法確立の基礎となる研究を実施することにある。この方針について日本の糖鎖生物学の今後の糖鎖科学の研究方針(ロードマップ)の作製に関与し、線虫による今後の研究の展開方針について和文書籍(2018年)、英文書籍(2019年)を公開した。また線虫糖鎖遺伝子データベースCGGDBについてオープンアクセス化の手続きを完了した。線虫の生殖幹細胞ニッチの形成に不可欠なGPIアンカータンパク質遺伝子を網羅的RNAiスクリーニングで7つに絞り込み、そのうちの3つが生殖幹細胞ニッチを形成する体細胞で細胞膜上のraftに集まって働いていることを明らかにした。3つの遺伝子はTGF-βやNotch信号伝達系と協同で生殖幹細胞形成に働いていることを明らかにした。また3つの遺伝子の転写制御因子候補も同定した。以上の研究成果については論文を現在投稿中である。さらにO157感染症のモデルシステムとして作成したベロ毒素レセプターGb3を発現しているヒト化線虫のDNAマイクロアレイデータを解析し、毒素を与えたときに限って線虫の神経細胞遺伝子が大きく変動することを発見した。同様のオーソログ遺伝子の変動はヒトのO157感染でも見られることがわかり、線虫モデルがヒト感染症の有力な解析モデルとなることが証明できた。また線虫のacetyl CoA トランスポーターのノックアウト株の解析結果から線虫がヒトのアセチルCoAトランスポーターの異常症の優れたモデルになることも判明した。これらの成果については論文を執筆、改訂中であり、順次研究成果を公表する予定である。
(1)では研究成果をわかりやすく紹介するとともに糖鎖生物学入門記事を連載している。また糖鎖と感染症(新型コロナウイルスなど)・病気との関係についてもわかりやすく解説している。(2)は線虫糖鎖遺伝子データベースであり、ヒトの糖鎖遺伝子の線虫オーソログを集めて英語・日本語で解説している。
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