研究課題/領域番号 |
16K07304
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
冨田 太一郎 東邦大学, 医学部, 講師 (70396886)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | MAPK / イメージング / 光操作 |
研究実績の概要 |
本研究では、細胞の増殖および死の制御に関わるMAPキナーゼ(MAPK)に着目し、特に生細胞内でp38やERKなどのMAPK活性を制御する光学的な新手法を開発し、これを用いて、がん細胞の増殖や死を制御する細胞内シグナルにおいてこれらのMAPK動態が生理機能に果たす役割を解明することを目的とした。 平成28年度は、新規のMAPK活性制御実験系の構築とMAPK活性可視化実験系の最適化を行った。MAPK活性制御実験系として、光操作により効果的にMAPKシグナルを惹起させる分子群(MAP2K、MAP3K分子、あるいはTNF-alpha受容体アダプタータンパク質分子)と各種光応答分子(Dronpa, フォトトロピン,クリプトクロムに由来する分子および光応答活性を高める既知の変異を導入したもの)との融合タンパク質を哺乳類細胞に発現させるためのDNAコンストラクトを作成した。また、MAPK活性可視化実験系の最適化のために、先行研究で開発したFRET法によるMAPK活性可視化レポーターおよび単一の蛍光色でMAPK活性を測るレポーター(kinase translocation reporterおよびMAPKAPK2と赤色蛍光タンパク質との融合タンパク質)の発現系を構築し、それぞれをHeLa細胞に導入して生きた細胞内のMAPK活性を蛍光イメージングにより定量的に可視化する実験系を構築した。次に、MAPK活性制御の候補コンストラクトをこのMAPK活性可視化HeLa細胞に導入して、光照射で惹起されたMAPK活性をイメージング法で定量することにより、光照射に応答してMAPK活性を変化させる候補コンストラクトを選別した。その結果、p38MAPKの上流キナーゼ分子とフォトトロピン分子との融合タンパク質は光照射依存的にp38MAPK活性化を生じることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の最も大きな目標であるMAPK活性を光照射により制御する分子のデザインとその構築を行い、また実験によって候補コンストラクトを得ることができた。光操作によるMAPK活性制御についてはほとんど前例がない状況であったが、本年度にこの目標を達成できた点で、現在までの進捗は概ね計画通り順調といえる。特に、本課題では野心的に3つのMAPK活性制御を狙うが、今回得ているp38制御の候補分子は他のMAPKの活性制御系へと最適化させることが可能な分子であったため、今後速やかに同様のMAPK制御コンストラクトを作成することでERKとJNK経路でも同様の光応答分子を得て、次年度以降の計画を遂行できると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本計画では、平成29年度以降においては、従来法では解析が困難な事象である、各MAPK活性の持続時間、強さ、振動のパターンが癌細胞の増殖・死・運動・老化の誘導にどのように反映されるかという問題を解明する。 そのためには、株化培養がん細胞において(1)MAPKイメージングによって、無刺激時および増殖因子による細胞増殖を誘導した際の各MAPK活性の特徴的な変動パターンを解明する。また、(2)抗がん剤などの細胞死誘導刺激によって惹起されるような細胞死特異的MAPK活性化パターンを解明する。次に、(3)この細胞に光操作実験系を導入し、光操作によって人為的に細胞増殖あるいは細胞死誘導の際の各MAPK活性化パターンを再現し、細胞機能およびMAPK下流の遺伝子発現の変化を解析する。特に、平成28年度までに得たコンストラクト候補を基にMAPK光操作の感度およびその持続時間をこの培養細胞に最適化させることにより、MAPK活性の変動レベルとその下流の細胞機能との間の定量的な対応関係を解明することをねらう。
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次年度使用額が生じた理由 |
生化学実験に用いる抗体関連製品は価格改定のために全般に販売価格が高くなっていたが、その一方で、抗体を購入する際に業者が不定期に行うキャンペーンを利用して納入価が抑えられたため合計として上記の差額を生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
今後実施計画している実験に使用する試薬のうち、抗体製品は当初見積もり時より値上がりが続いているため本年度残額はその差額に充当する。
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