超高齢化社会を迎えた本邦において、“寝たきり”や“要介護”といった自立性喪失の誘因となる筋萎縮症(サルコペニア)・骨粗鬆症・変形性関節症などの運動器疾患の克服は喫緊の課題である。我々はこれまでに、グリコサミノグリカン多糖の代表格であるコンドロイチン硫酸(CS)鎖が神経・骨格筋・骨・軟骨といった運動器を支える構成要素の分化過程を制御する多機能糖鎖であることを明らかにしてきた。本研究では、運動器疾患の中でも、筋萎縮症および骨粗鬆症に焦点を当て、それらを克服するための鍵となる「骨格筋分化・再生」過程ならびに「破骨細胞分化」過程におけるCS鎖の役割とその制御メカニズムの解明を目指し、本年度については、以下の成果を得た。 1)当初掲げた研究課題の一つである「骨格筋への運動神経の投射と神経筋接合部(NMJ)の形成におけるCS鎖の関与」について解析を進めた。その結果、筋管細胞上のアセチルコリン受容体の凝集を指標としたNMJの安定形成には、CS鎖の発現量減少が重要であることが示唆された。 2)一方で、海馬神経細胞などに対して神経突起伸長促進作用をもつ高硫酸化CS鎖の作用発現が特定のインテグリン分子との相互作用を介して発揮される可能性を見出し、運動神経などの神経突起の伸展・投射が、CS鎖の発現量のみならず、硫酸化パターンによっても大きく影響を受けることが示唆された。 3)破骨細胞の分化・成熟がCS鎖の細胞自律的な代謝調節によって成り立つ一方で、骨芽細胞などに由来するCS鎖によって抑制的に制御されることが判明した。さらに、その抑制性CS鎖を有するCSPGのコアタンパク質は、前年度に同定した破骨細胞分化の促進に寄与するコアタンパク質とは異なることを見出した。これらの結果より、破骨細胞の分化が、異なるCSPGを介して、細胞自律的かつ非自律的に制御されていることが強く示唆された。
|