研究課題/領域番号 |
16K07308
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
コルネット リシャー 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 生物機能利用研究部門 新産業開拓研究領域, 主任研究員 (20376586)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ネムリユスリカ / 乾燥耐性 / Anhydrobiosis / 培養細胞 / トレハロース / RNAi / トレハラーゼ / HSTF |
研究実績の概要 |
ネムリユスリカの幼虫はカラカラに乾燥しても死なない。体内の含水量が3パーセント以下に落ちても、無代謝状態で乾燥に耐え、再び水に戻ると蘇生して活動と発生を続ける。この極限乾燥耐性(Anhydrobiosis)を実現するために様々な乾燥保護因子の他にトレハロースは必要不可欠である。トレハロースは乾燥時に細胞膜を安定化させ、ガラス化することにより細胞や生体分子を保護する。しかし、トレハロース合成の制御機構がまだ解明されておらず、保護機能以外にもトレハロースの転写制御機能や抗酸化機能への関与が示唆された。ネムリユスリカでは、トレハロース合成酵素のTPP、TPS、トレハロース分解酵素のトレハラーゼやトレハローストランスポーターTRET1などのトレハロース代謝に関わる遺伝子が同定されている。一方、ネムリユスリカ由来の培養細胞Pv11の常温乾燥保存プロトコールが開発され、RNAi遺伝子発現干渉法も確立された。本研究ではそれらの機能解析ツールを利用し、トレハロース合成の制御機構やトレハロースの複合的な機能を調べる。今年度は特にトレハロース合成の制御機構について調べた。転写因子のHSTFに注目し、トレハロース合成酵素やトレハロース代謝に関わる遺伝子発現に対する影響を確認した。一方、トレハラーゼの機能阻害により、再水和後の乾燥培養細胞Pv11の蘇生率と増殖率はどのような変化を示すかを手始めに詳細に調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
28年度はまずトレハロース合成酵素の発現制御について調べた。ゲノム・トランスクリプトーム解析より熱ショック応答転写因子HSTFが乾燥耐性関連遺伝子の発現を制御していると示唆された。ネムリユスリカ由来の培養細胞Pv11を利用し、RNAiによりHSTFの発現を阻害した。その結果、HSTFの発現が80%阻害されて、HSTFのRNAi実験区ではトレハロース合成酵素のTPP遺伝子の発現もトレハロース分解酵素のトレハラーゼ遺伝子の発現も30%程度阻害された。しかし、トレハロース代謝関連遺伝子のTPSとTRET1の発現に対する影響はなかった。したがって、HSTFはトレハロース代謝の一部の遺伝子を制御していることが示唆された。一方、HSTFのRNAi実験区では乾燥と再水和後のPv11細胞の生存率が対象区の20%しかなかった。したがって、HSTFはネムリユスリカの乾燥耐性において重要な転写因子であることが明らかになった。 続いて、同じPv11細胞を利用してトレハラーゼ遺伝子の発現をRNAiで阻害した。その結果、トレハラーゼの発現を最大85%阻害することができた。Pv11細胞を乾燥させ、再水和したあと、トレハラーゼRNAi実験区の生存率は対象区と変わらなかった。しかし、その後の細胞増殖は対象区より低かったことから乾燥時にトレハロースが存在して細胞が損傷から保護されるが、再水和後にトレハロースの分解が細胞増殖のために重要であることが明らかになった。今後はそのメカニズムを詳細に調べる。
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今後の研究の推進方策 |
まず、RNAi実験の効果をより正確に評価するために、Pv11細胞の乾燥プロトコールを改良する。それから、改めてトレハラーゼ遺伝子のRNAiとトレハラーゼ阻害剤(Validoxylamine A)処理による乾燥・再水和後のPv11細胞の生存率と増殖率に対する影響を調べる。また、乾燥細胞の再水和後にトレハラーゼ活性によりNADPHが生産され、抗酸化能力が維持されるという仮説を確認するために、トレハラーゼRNAi実験とトレハラーゼ阻害剤添加実験における総合抗酸化能力をCLETA-Sや過酸化水素測定キットなどで評価する。 Pv11の乾燥保存実験ではトレハロース溶液が利用されるため、トレハラーゼ活性に対するRNAiと阻害剤の効果を確認するためにネムリユスリカの幼虫を用いて同じトレハラーゼRNAiと阻害剤実験におけるトレハロース含量の測定をHPLC解析により行う。その結果により、乾燥幼虫の蘇生率と蘇生後の総合抗酸化能力を調べることも考えている。 更に、年度末にトレハロース合成酵素のTPS-alpha/betaのRNAi実験も予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
28年度の未使用額(975円)は注文した物品の予想金額と実際の金額の誤差から生じたものである。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の予算と合わせて研究用の資材の購入に使用する。
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