研究課題
ネムリユスリカの幼虫はカラカラに乾燥しても死なない。水に戻すと通常の活動状態に戻る。乾燥の無代謝状態(Anhydrobiosis)を実現するために体内に蓄積したトレハロースがガラス化することにより細胞や生体分子を保護する。一方、乾燥幼虫の再水和後に見られるトレハロース分解は抗酸化能力を支えている仮説はメタボローム解析の結果から示唆された。トレハロースの分解酵素であるトレハラーゼの阻害剤(VAA)を使った実験で再水和後20時間にトレハロースの分解がVAAにより抑制されていることを確認した。また、幼虫の総合抗酸化能力はトレハロースの量に比例して乾燥状態で高くなり、再水和後に元のレベルに戻る。VAAの副作用によりトレハロースの量も抗酸化能力も変動しなかったことから関連性を証明することも否定することもできなかった。しかし、再水和後48時間でVAA処理個体の80%以上が死ぬことから、トレハロース分解は再水和後の生存に必要不可欠であることを明らかにした。トレハロースからのエネルギー源が断たれたため幼虫が死んでしまう可能性もあるが、栄養豊富な状態で培養されるネムリユスリカの細胞系を使った場合でもVAA処理もRNAiによるトレハラーゼの発現阻害も乾燥・再水和後の細胞増殖を有意に低下させる効果があった。その結果からトレハロース分解はエネルギー代謝以外の生命維持に必要な代謝機構を支えていることが示唆された。一方、トレハロースのシグナル伝達も乾燥休眠の誘導に関与する仮説があるが、培養細胞を利用したトレハロース受容体の候補であるTPS-betaのRNAi阻害と抗酸化剤処理を組み合わせた実験の結果からトレハロースを介したシグナル伝達の可能性が低く、むしろ酸化ストレスが重要な引き金であることを明らかにした。
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PNAS
巻: 5 ページ: E2477-E2486
http://doi.org/10.1073/pnas.1719493115
Scientific Reports
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