研究課題/領域番号 |
16K07309
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
中村 寛夫 国立研究開発法人理化学研究所, ライフサイエンス技術基盤研究センター, 専門職研究員 (80270594)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ヘム / ABCトランスポーター / ヘム排出ポンプ / 病原菌 / ATP |
研究実績の概要 |
ヘムはほとんどの生物にとって必須のタンパク質補欠分子族であり、細胞内で合成される。一方、被食者由来のヘムは捕食者にとって主要な鉄・ヘム源である。タンパク質から遊離したヘムは毒性があるため生物はその毒性を回避しながら取り込み、利用している。グラム陽性病原菌はヘムを解毒する特有のポンプHrtBAをもっている。HrtBAはABCトランスポーターに属し、その欠損株は血中での生育が阻害されることが報告されており、ヘムを排出すると考えられる。近年、黄色ブドウ球菌や連鎖球菌などいくつかの病原菌では抗生物質耐性菌が出現しており、このヘム排出ポンプは新たな創薬の対象ともなっている。本研究はこのヘム排出ポンプの生化学的性状と構造基盤を明らかにし、ABCトランスポーター分子機序解明のパラダイムとすることを目標としてきた。申請者はこれまでに発現系構築、可溶化精製法を確立し、ATPase活性、ヘム結合・解離活性を詳細に研究し、また、ATPアナログ結合型の結晶構造を決定した。 本年度はヘムアナログであるマンガンポルフィリン結合型の結晶およびタンパク質単独(アポ型)の結晶を得て、大方の構造情報を得た。HrtBAトランスポーターはATPaseサブユニットであるHrtA2分子と膜結合サブユニットHrtB2分子からなる。ひとつのHrtBサブユニットは4本の膜貫通ヘリックスと200アミノ酸残基の細胞外ドメインからなる。マンガンポルフィリンは膜から突出した4本のヘリクスの上端(細胞外ドメイン直下)に結合していた。アポ型ではこれら4つのヘリクスがずれて、膜中からヘムが侵入できる構造となっており、この構造がヘム高親和性をもたらすものと推定した。以上からヘムが膜中からヘリクスの間に入り、ATP結合によって細胞外に排出される様子がイメージできるようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ヘム結合型の良質な結晶が得られなかった。マンガンポルフィリンはヘム同様にATPase活性を上昇させるため、ヘムアナログとみなすことができ、良い結晶が得られた。しかしながら、結晶の分解能はまだ4オングストロームをきっておらず、また、ポルフィリン環の電子密度が十分に見られなかった。アポ型は細胞外ドメインの電子密度が見えていない。細胞外ドメインはフレキシブルな構造をとっている可能性がある。 ポンプタンパク質へのヘム結合・解離は生化学的に観察できているが、膜再構成系におけるヘムの輸送は観察に成功していない。これは一般的なトランスポーターでは輸送基質膜が横断するのに対して、ヘム排出ポンプでは膜中のヘムが結合し、その後、膜外に排出されるため、検出系の確立が困難であるためである。
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今後の研究の推進方策 |
ヘム(またはマンガンポルフィリン)結合型およびアポ型の結晶化を引き続き蒸気拡散法で行う。また、キュービックフェーズ法も平行して行う。さらに脂質ナノディスクに再構成して、クライオ電顕による構造解析に着手する。 亜鉛ポルフィリンもATPase活性を上昇させることから輸送基質になっていると推定できる。亜鉛ポルフィリンは蛍光を発するため、ヘム排出の検出のための高感度測定が可能と考えられる。ポルフィリンが脂溶性であるため、脂質膜への非特異的吸着を前提とした輸送測定法を考案、採用する。
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