ほとんどすべての生物は環境から鉄を取り込んで生体反応に利用している。鉄ポルフィリン錯体であるヘムは細胞内で合成され、タンパク質に結びつき様々な働きを行うコファクターである一方、遊離ヘムは強い細胞毒性をもつ。グラム陽性細菌は感染宿主から鉄源・ヘム源としてヘムを奪う際、遊離ヘムに晒されることから、解毒するためにABCトランスポーターであるヘム排出ポンプを作動させている。院内感染で恐れられている黄色ブドウ球菌や連鎖球菌はこのヘム排出ポンプを欠損すると血液中で増殖できなくなることからこれら病原菌の宿主感染において重要な役割をはたしていることが理解できる。申請者はこれまでにジフテリア菌ヘム排出ポンプのヘム依存的ATPase活性化、ATP結合によるヘム遊離といった生化学、およびヘム型、ATP型、フリー型の結晶構造解析を行ってきた。本年度はヘム型のより分解能の高い結晶の取得を試みた。また、ヘム結合部位の配位子であるグルタミン酸に変異導入して、膜再構成系においてヘム依存的ATPase活性を調べた。ヘム排出ポンプHrtBAでは結晶構造解析からHrtBサブユニットのグルタミン酸219が配位子としてヘムに結合していることが判明した。従来知られているヘム結合タンパク質ではヒスチジン、システイン、チロシンが配位子であるため、珍しい例と言える。アラニン、グルタミン変異ではヘム依存的ATPase活性の上昇がなくなった。また、ヒスチジン変異体では精製時から等量的にヘムを結合してることが判明した。これらの結果はポジション219におけるヘム配位結合がATPaseの活性化に関与していることを示している。
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