研究実績の概要 |
tRNAはタンパク質合成においてコドンとアミノ酸を結び付ける要であり、転写後に化学修飾を受け機能発揮する。tRNAの硫黄修飾塩基はコドン認識や構造安定化に必須である。本研究ではこの硫黄修飾塩基の生合成機構の解明を行った。 好熱菌tRNAのs2T54硫黄修飾塩基の生合成に関与する、新規ペアスルフィド結合タンパク質TtuDを逆遺伝学的に同定し生化学的に解析した。TtuDはシステイン脱硫酵素が生成したペアスルフィドを受け取り、効率的に最終硫黄ドナータンパク質TtuBに伝達する (FEBS Lett, 2016)。反応性の高い硫黄原子を確実に硫黄化酵素に伝達する機構であった。またs2T54生合成の最終ステップをになう、RNA硫黄化酵素TtuA-TtuB複合体の立体構造を決定した (共同研究)。無酸素下実験法を確立しEPR法・生化学解析をおこない、酸素感受性の鉄硫黄クラスター (Iron Sulfur Cluster) が関与する新規硫黄転移機構を解明した (Acta Cryst F, 2016; PNAS, 2017, 共同研究)。このしくみは一部真性細菌を除き保存されており、ヒトではミトコンドリアのエネルギー生産に寄与する重要なシステムである (プレス発表, 2017)。 さらに、ゲノム配列解析から病原微生物等では別種硫黄修飾塩基の生合成酵素も鉄硫黄クラスターを活性に必要とすると推測した。実際に酸素感受性ISCが結合することをEPR法により示した (共同研究)。変異体酵素とtRNAを用いて反応機構をあきらかにした (投稿中)。 以上により複数のtRNA硫黄転移酵素において、酸素感受性ISCが硫黄転移反応に必要であることをあきらかにした。本研究は硫黄転移酵素の反応機構と進化に新知見を与え、抗菌剤や遺伝病治療法の開発の基盤を提供する (Front Microbiol, 2018 総説)。
|