既知のタンパク質構造を再配線することによって新規フォールド構造を作成する際、再配線した構造が物理的に可能な構造なのか否かを判定する必要がある。昨年度までで平行βシートからなるフォールドに関して、物理的に好ましいものとそうでないものを判別する基準を完成させる事ができた。 本年度はこれまでに得られた見地を生かして、対象とするフォールドを、反平行βシートおよび平行と反平行βシートが混合したフォールドまで拡張した。これらを実現する上で重要なファクターは、α-βループとβ-αループ、およびψループの構造選択性が大きく異なっていることを発見したことであった。この構造選択性の違いは、まずはデータベース解析によって発見し、次いで物理シミュレーションによってその構造選択性が進化によるサンプリングバイアスではなく、物理法則によって決定されていることを確かめた。さらに、これらの構造選択性とアミノ酸配列の関係も部分的に明らかにする事ができ、物理的な観点からのタンパク質の構造と配列の関係の解明に向けて重要な見地が得られた。 これらの成果を統合して、βシートタンパク質に対して、既知構造の再配線によって新規フォールド構造を生成し、物理的に不可能なものを除去する事ができるフィルターを作成することができた。また、成果の副産物として、「タンパク質のフォールドは約1000種類に限られている」と言う仮説が広く受け入れられているが、これに対して物理的な観点から説明を与える事ができた。
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