視物質ロドプシンは網膜視細胞に存在する光受容膜蛋白質で、7 本膜貫通 α ヘリックス構造をもつG蛋白質共役型受容体(GPCR)のメンバーである。超高速、高効率の光センサとして特化した脊椎動物のロドプシンは光を吸収した活性型がすぐに分解してしまうという一見矛盾するような特徴を持つ。一方、無脊椎動物のロドプシンは光活性化状態が生理的条件下で安定であり、光活性型はさらに光子を吸収し基底状態へと戻る。さらに、無脊椎動物のロドプシンではG蛋白質の活性化効率が神経伝達物質やホルモン受容にかかわる一般GPCRと同程度に高くない。これらの特徴を決定づける構造を明らかにするため、イカロドプシンを用いて光活性型メタ状態のX線結晶構造解析に取り組んだ。 イカロドプシンのメタ状態は1か月以上にわたりpH依存的可逆的な吸光変化を維持することから、その活性化構造を保持していることが示唆された。この試料を用いて結晶化を行い、酸性型メタ状態が100%形成される条件下で新規に六方晶を得ることができた。この結晶を用いて構造解析を行い、3.7A 分解能で構造を決定した。 酸性型メタ状態の全体構造は、暗順応状態の構造とほぼ同じ、ヘリックスが閉じた構造であった。活性部位で は、全トランス型レチナールがβイオノン環を約60°回転させ、リング平面をポリエン鎖平面と平行に向けてい た。その構造変化によって、周囲の残基の芳香族環が押され活性部位内の空隙がやや広がっていた。
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