研究実績の概要 |
本研究では、LOVドメインとBLUFドメインというフラビン結合光センサータンパク質を対象として、光反応に伴う構造変化をフーリエ変換赤外(FTIR)分光法を用いて測定を行った。 特に、3000-2000 cm-1領域には極めて強い水素結合を形成したN-HやO-H基の伸縮振動が観測されることから、特異な水素結合環境形成の情報を得た。2018年度は、紅色光合成細菌由来の光センサータンパク質AppAのBLUFドメインの計測と解析に関する報告を行った。我々は以前に、BLUFドメインの光反応に必須のチロシン残基のO-H基が光反応中間体においてきわめて強い水素結合を形成することを報告した(Iwata et al., J. Phys. Chem. Lett., 2011)。後に、BLUFの光反応の実体がグルタミン側鎖がエノール型(-C(OH)NH)への異性化であり、エノール型の窒素原子(の非共有電子対)がチロシンの水素結合供与体だとの報告がなされた(Domratcheva et al., Sci. Rep.6, 22669, 2016)。我々もエノール型の検出を目的として彼らと同じ手法で研究を行なっていたが、彼らの報告したシグナルは我々のシグナルとは大きく異なっていた。これは、単に違う種のBLUFドメインを使っているだけでは説明がつかなかった。我々は、グルタミンだけでなくフラビンやチロシンの網羅的な同位体標識試料の計測を行い、量子力学計算と分子動力学計算による構造最適化及び化学結合の振動数計算を行った結果、反応には必須でないが近傍で保存されているトリプトファン残基の側鎖の向きがBLUFドメインによって異なっていることを明らかにした。このトリプトファン残基はAppA-BLUFでは光反応にかかわらずフラビン側を向き、他のBLUFドメインは外側を向いていることが示された。
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