研究課題/領域番号 |
16K07320
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山口 知宏 京都大学, 薬学研究科, 助教 (80346791)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | ABCトランスポーター / P糖タンパク質 / 基質相互作用 / 立体構造解析 / 膜タンパク質 |
研究実績の概要 |
前年度に実施したP糖タンパク質ホモログと基質との相互作用をトリプトファン(Trp)の蛍光変化を用いて測定する系の構築において、非特異的な蛍光を除くために野性型にある6個のTrpのうち、機能に重要な1つを除きすべてをチロシン(Tyr)に置換した変異体(5WY)に安定性が低いという問題があった。置換した5つTrpのいずれかが安定性に重要な残基であると考えられたため、これらのTrpを1つずつTyrに置換した変異体を作成して、変異体タンパク質を精製し、それらのATPase活性の熱安定性を測定した。その結果、ATP結合ドメインの内部に側鎖が埋まっているTrp残基をTryに置換した変異体だけ著しく熱安定性が低下したことから、この残基が安定性に関与していることが判明した。そこで、このTrpを野生型に戻した変異体(4WY)を作成したところ、4WYの輸送活性と安定性はいずれもWTと類似していた。したがって、4WY変異体は新たに導入するTrpについて調べるために適していることが判明した。そこで、立体構造に基づいて基質結合部位の近傍のアミノ酸残基を選び、4WYのそれらの残基をTrpに置換した変異体を作成した。そして、変異体タンパク質を精製し、精製試料を用いて基質または阻害剤の存在下または非存在下でTrpの蛍光変化を測定した。その結果、化合物濃度依存的な蛍光変化が観測された。それは野性型やベースとなった4WY変異体での蛍光変化と比べて、蛍光強度の変化量が大きく、また基質濃度依存性も異なっていた。このことから、このTrp変異を用いることで基質との相互作用が観測されていることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度のGW変異体の研究によって、それまでに判明していた内向型とは異なる新規の結晶構造を決定し、その構造は途中状態であることが示唆されていた。前年度の研究では、計画していたGW変異体と基質との共結晶が得られていないが、Trp蛍光測定系を構築することができた。この系と、すでに構築していた輸送活性とATPase活性の測定系を用いて、GWの機能への影響を調べることによって、GW変異体で判明した構造変化の途中状態と機能との関係が明らかになるものと期待される。
|
今後の研究の推進方策 |
GW変異体の機能解析によって、立体構造の安定な状態の違いが機能に及ぼす影響を調べ、得られた結晶構造と機能との関係を明らかにする。さらに、基質複合体結晶が得られていないことからシミュレーション解析に基づいた機能解析を実施する。すなわち、CmABCB1の内向型と外向型の結晶構造を用いてモーフィング解析とドッキングシミュレーションを実施し、構造変化途中状態で基質と相互作用するアミノ酸残基を予測する。これらの残基の変異体を作成し、精製タンパク質を用いて、機能への影響を検証し、構造変化途中で基質と相互作用する残基を明らかにする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、構造変化の途中状態と考えられる状態で結晶構造を決定できたGW変異体を用いて基質との共結晶化を実施することになっていた。しかし、この変異体の予備的な機能解析によって、基質親和性が野生型より低いと示唆される結果が得られた。そのため、GW変異体は基質と複合体を形成しにくいと考えられた。次年度使用額が生じた理由は、GW変異体の共結晶化とそのためのタンパク質大量調製の代わりに、相互作用測定系の構築を実施したためである。
|