本年度は、構造変化の状態と基質相互作用との関係を調べた。これまでに、X線結晶構造解析によりGW変異体の構造は途中状態であることが示唆されたものの基質との共結晶は得られなかったことから、構造変化の途中状態における基質相互作用を調べるため、トリプトファン(Trp)の蛍光変化を利用して基質との相互作用の強さを観測する系を構築した。すなわち、CmABCB1の内向型と外向型の2つの立体構造を用いたモーフィング解析から、基質と相互作用するが構造変化の中で変わりうる複数の残基を予測し、それらをそれぞれTrpに置換した変異体を作成した。その結果、基質結合部位近傍のMetまたはPheの変異体は、基質の添加によって濃度依存的にTrp蛍光が大きく変化したことから、基質との相互作用を直接観測できていると考えられた。そこで本年度は、これらのTrp変異体を用いて、状態の違いによる蛍光変化への影響を観測する実験を行った。その結果、作成した変異体のうち、基質結合部位の細胞内側にあるMetをTrpに置換した変異体において、ATPの添加によって基質濃度依存的な蛍光変化の最大変化量が減少することを見出した。ATPは外向型への構造変化を引き起こすことから、この変化は外向型の割合の増加に伴い基質相互作用が減少したことによるものと考えられた。さらに、結晶構造から、外向型において基質相互作用が減少する要因は基質結合領域の収縮であると推定され、この収縮にGly132とAla246とのvan der Vaals相互作用が寄与する可能性を見出した。これらの残基のアミノ酸変異は輸送活性を著しく低下させたことから、基質が結合できなくなるように基質結合領域が収縮されることは基質排出に重要であることが示唆された。
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