研究課題
本研究は,アクトミオシンが動作するときにアクチンフィラメントにおいて起こるイベントを超解像蛍光イメージングで明らかにすることで,その動作メカニズムのより良い理解を得ようとするものである.このために,水溶液中で活きた状態のアクチンフィラメントとミオシンを超解像蛍光顕微鏡で観察し,それらの挙動を高空間分解能で解析する.本年度は,この研究実施に必要な超解像蛍光顕微鏡イメージング手法の開発を行った.超解像蛍光顕微鏡イメージングは,SPoD (superresolution by polarization demodulation)法をベースとし,その改良を行った.SPoDでは,直線偏光かつ偏光面を機械的に回転させた励起光を用いて蛍光試料からの蛍光に変調を掛けながらタイムラプス観察を行う.このようにして取得した蛍光変調を含む画像データから,正則最尤計算によって超解像画像を得る.蛍光変調振幅と空間分解能との関係を調べるために,計算機シミュレーションを行ったところ,蛍光変調の振幅の深さが空間分解能に影響し,蛍光変調振幅が深い方が高空間分解能が得られることが分かった.蛍光変調振幅を深くするために,励起光光学系で用いるミラー等の光学素子や使用する光の波長幅を慎重に選択・調整することで,できうる限り励起光の偏光比の向上を図った.また,測定した画像データから超解像画像をえるための再構成計算の改善も行った.従来のSPoD法における再構成計算法は,計算速度および再構成計算結果の画像にアーティファクトが発生するという2点の問題がある.これら2点に対してまずは別々のアプローチを行い,計算速度については再構成計算プログラムのFORTRANへ移植と並列化のための最適化を行った.アーティファクトについては正則最尤計算の改変によって改善を図った.
3: やや遅れている
本研究の当初計画では,本年度は,顕微鏡装置の製作,従来の再構成計算法の改良,そしてアクチンの測定の着手を計画していたが,顕微鏡装置の製作と,再構成計算法の改良が途上で終わっている.顕微鏡装置については,通常の落射蛍光顕微鏡の励起光光学系を使用するだけでは,励起光の偏光比が十分でないということが明らかになったため,その偏光比の改善に時間を要した.また,従来使われていた超解像画像再構成計算プログラムが特殊なアルゴリズムを使っていることが明らかになったため,それを並列化するに当たり,手法の解析に時間を要した.
次年度は,顕微鏡装置を進めてアクチン・ミオシンの超解像観察を可能にする.さらに,これを用いてアクチン・ミオシンの測定に着手する.特に,ミオシンとATP存在下の滑走運動中のアクチンフィラメントの数十nmレベルの形態に注目して,動作中のアクチンフィラメントの活性化状態を解析したい.次々年度には,アクチンフィラメントに沿った共同性の伝わりについて,超解像イメージングで解析を進める.
アクチン・ミオシンを使用した測定実験を次年度に行うことにしたため,それにかかる経費が差分として発生した.
今回発生した次年度使用額については,次年度の研究遂行におけるアクチン・ミオシンの実験,光学系の改変そしてソフトウェア開発にかかる費用として使用する予定である.
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The Journal of Physical Chemistry B
巻: 120 ページ: 6917-6928
DOI: 10.1021/acs.jpcb.6b02584