研究課題/領域番号 |
16K07322
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
和沢 鉄一 大阪大学, その他の研究科, 特任准教授(非常勤) (80359851)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 超解像イメージング / 蛍光偏光 / 蛍光顕微鏡 / 正則化 |
研究実績の概要 |
アクトミオシンは,アクチンフィラメントとミオシンから構成される蛋白質複合体であり,アデノシン5’-三リン酸(ATP)の加水分解反応によって得られるエネルギーを用いて一方向性の運動や力発生を行う分子機械である.アクトミオシンにおけるATP加水分解の化学エネルギーから力学仕事へ変換する化学力学共役のメカニズムの従来の理解では,大きな構造変化を起こして能動的に力発生を起こすのはミオシンであり,アクチンフィラメントは並進運動のための単なる足場の役割を担っていると考えられている.本研究では,アクトミオシンが動作するときにアクチンフィラメント上で起こるイベントを超解像蛍光イメージングによって数10 nmの分解能で解析することにより,その動作メカニズムにおけるアクチンフィラメントの役割の解明を目指すものである. 昨年度中に,超解像イメージング技術であるSPoD(Superresolution by Polarization Demodulation)顕微鏡および超解像画像再構成プログラムの開発を進めたところ,顕微鏡の照明光や再構成計算に問題点が発生した.そこで,本年度は,これらの問題点の解決に取り組んだ.SPoD顕微鏡の蛍光照明では,レーザーを光源に使用することが原因で試料面において照明光の干渉縞が発生し,一様な強度での照明が困難であった.そこで,本年度では光源をレーザーからLEDに変更して照明光学系を再構築することで干渉縞の発生を解決した.また,撮影データから超解像画像を得るための再構成計算では,過剰補正が原因と考えられるアーティファクトのパターンがしばしば計算結果に顕れた.この問題は,再構成計算で用いたL1正則化をLp正則化に変更することで解決を図った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題の研究計画では平成29年度中に,製作したSPoD超解像蛍光顕微鏡を用いて,アクチンフィラメントの物性計測や,アクトミオシンの物理化学計測を行う予定であった.しかし, 開発した超解像蛍光顕微鏡における照明光の不均一性の問題があり,これを解決するのに時間を要した.この照明光の不均一性は,レーザー光源をLED光源に置換し,それに伴う光学系の最適化を行うことで解決した.また,超解像顕微鏡から得られる画像データから超解像画像を再構成する計算法に問題があり,計算結果に過剰補正に起因するアーティファクトのパターンが発生した.これを解決するために,画像再構成計算法の基本的な原理から見直して修正することを余儀なくされた.この修正では,線形逆問題を解く最尤計算において,L1正則化をLp正則化に変更した. これらの問題点を克服したことにより,ここで開発した超解像蛍光顕微鏡技術の内容を取りまとめて,国際誌であるMicroscopy誌に投稿することができ,受理された.以上より,平成28年度~29年度で,時間を掛けてここに挙げた問題点を解決したことは,本超解像顕微鏡技術の将来的な応用や移転のためには有意義であったと考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,(1)本研究課題で開発したSPoD超解像顕微鏡を用いたアクトミオシン系の測定と,(2)SPoD超解像顕微鏡技術の応用展開に取り組む.アクトミオシン系の計測では,超解像顕微鏡を用いて,アクチンフィラメントに沿ったミオシンS1分子の結合様式を高解像度でリアルタイムに測定することで,アクチンフィラメントに沿ったS1分子結合の情報伝達を明らかにする.また,ブラウン運動によるアクチンフィラメントの屈曲運動を高解像度で測定して解析することにより,S1におけるATP加水分解に伴って発生したエネルギーのアクチンフィラメントへの伝わりを調査する. SPoD超解像顕微鏡技術の応用展開については,培養細胞を使った超解像イメージングを行う.これまでは,当該顕微鏡を用いることにより,超解像静止画像の取得に成功している.この顕微鏡が短時間で超解像画像再構成に必要な画像データを取得できることを生かし,今後はリアルタイムの超解像イメージングに取り組む.これにより,蛋白質複合体のダイナミクスや細胞の動的プロセスをこれまでになかった高解像度で観察することができると期待され,この超解像顕微鏡技術のリアルタイム・バイオイメージングへの応用の有用性を検証する.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の進捗に対応し,今年度,主として超解像顕微鏡の改良と超解像画像再構成計算法の改良に重点を置いて研究遂行した.このため,蛋白質調製および蛋白質を用いた実験にあまり経費の執行を行わなかったために,次年度使用額が発生した.次年度は,ここで生じた使用額を蛋白質調製の物品費や,研究成果発表にかかる費用にも経費を執行する予定である.
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