研究課題/領域番号 |
16K07323
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
鍔木 基成 神戸大学, 理学研究科, 教授 (00145046)
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研究分担者 |
木村 哲就 神戸大学, 理学研究科, 特命講師 (70506906)
武内 総子 神戸大学, 大学教育推進機構, 助教 (00448169)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | cytochrome b561 / アスコルビン酸 / 電子伝達 / 膜タンパク質 / ヘム / モノデヒドロアスコルビン酸ラジカル / 癌抑制遺伝子 / アポトーシス |
研究実績の概要 |
ヒト第3染色体3p21.3領域に存在する101F6遺伝子の持つ顕著な癌増殖抑制作用の分子機構は分かっていない。101F6遺伝子産物(以下101F6と略記)はヘム含有膜貫通型タンパク質cytochrome b561ファミリーの一員であり, アスコルビン酸(AsA)あるいはモノデヒドロアスコルビン酸(MDA)ラジカルが関与する細胞膜貫通レドックス反応がその生理機能発現に関与していると思われる。本研究ではAsA/MDAラジカルによる細胞膜内外でのレドックス擾乱をプログラム細胞死へと導く新規細胞内メッセージとして捉え, その細胞死シグナルを細胞膜・ER膜において発生させあるいは制御する細胞膜素子としての101F6タンパク質の役割と分子機構を解明することを目的としている。 メタノール資化性酵母Pichia pastoris GS115株を利用した異種発現系を利用し101F6タンパク質を発現させた。ミクロソーム膜可溶化後、101F6タンパク質のC末端に導入したHis-tag配列を利用したNi-Sepharoseクロマトグラフィによって101F6タンパク質を精製した。並行して、ヒト癌組織由来のA549細胞を培養した。十分量の培養細胞を用いて界面活性剤により細胞膜を溶かして細胞抽出液として回収した。細胞抽出液と101F6タンパク質をエッペンチューブ中4 ℃で混和して相互作用させた後、101F6タンパク質を特異的に認識する抗体を用いた磁気beads抗体法により101F6タンパク質と共沈するタンパク質の解析結果から相互作用分子の特定を目指した。SDS-PAGE銀染色で、共沈する多くのタンパク質バンドを確認した。今後、洗浄溶出条件を検討し、再現性のあるタンパク質バンドについてMassスペクトル解析と同定を行い、相互作用タンパク質の解析を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
101F6も神経系型b561と同様に生体膜(おそらくはER膜)貫通構造を保持していることから, 膜貫通酸化還元反応を利用した生理活性を持つことは確実である。このことが癌抑制遺伝子としての機能発現に必須であるならば, 101F6はこれまでの癌抑制遺伝子のメカニズムとは全く異なる機構に基づくことになる。AsA/MDAラジカルによる細胞膜内外におけるレドックス擾乱を細胞死に導くメッセージとしてとらえるという点は全く独創的・新規的なものであり,101F6の分子生理機構の研究は癌抑制遺伝子研究だけで無く,生体制御ネットワークの解明において新規な研究領域を開拓することになる。神経型あるいは植物型b561の場合,AsAとの結合部位を構成する細胞質側ヘムのHis配位子近傍には保存性Tyr70とLys81が存在するが,101F6の場合それらはPheとAla残基に置換されている。これらをそれぞれTyrとLysに戻してやると,神経型あるいは植物型b561に特徴的な生化学的性質(電子伝達のpH依存性,DEPC との反応による電子伝達阻害)を示すようになる。この知見はAsA/MDAラジカルとの反応性が微細な分子構造の変化により制御可能であることを示している。 現在、培養細胞中における101F6遺伝子の機能についての細胞生物学的解析, プロテオーム解析(及びメタボローム解析)を行っているが、これらの解析はいろいろな困難を伴う。A549細胞以外に3種のヒト培養細胞(HeLa, HepG2, WI-38)を用いて101F6遺伝子導入による増殖能, アポトーシスへの影響, タンパク質分子, 小分子代謝産物の変動, 等を調べる。これらの解析によってレドックス相互作用する小分子・タンパク質群を見いだす。併せてAsA/MDAラジカル添加に伴う101F6の発現への影響を解析する。
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今後の研究の推進方策 |
101F6の属するTSF型b561は非常に特異である。6回膜貫通ヘリックス構造を保持し, N末端, C末端共に細胞質側に位置すること, 2個のヘムを結合する4つの完全保存性His残基が存在することに関しては他のb561と同様であるが, ①サブファミリー内でのアミノ酸配列の保存性が非常に高いこと, ②神経系型や植物型b561にはAsA, MDAラジカルとの結合・電子伝達に関与すると思われる保存配列が存在するが, TSF型 b561ではこれらの配列は保存されておらず, 別の非常に良く保存されている配列が存在する。これは101F6が他のb561種において用いられているAsA・MDAラジカルとは別の酸化還元基質との間で膜貫通電子伝達反応を行っているか, あるいは,AsA・MDAラジカルと電子伝達する場合でもその分子機構が非常に異なっていることを示唆している。b561ファミリー内で独自の進化を遂げた101F6は膜貫通レドックスセンサー・スィッチとして機能することにより細胞内外でのシグナル伝達機構に深く携わっている可能性が高い。既に野生型101F6はb561ファミリーメンバーとしての性質(2個のヘムを含有しAsA・MDAラジカルと膜貫通電子伝達を行いうる能力)を有するが, MDAラジカルへの電子供与が非常に速いこと, AsA・MDAラジカルとの電子伝達反応のpH依存性が他のb561とは大きく異なっていること等を見い出している。これらの特異な性質の原因と考えられる保存性部位について各種部位特異的変異体を作製し,その影響を可視吸収,EPR, stopped-flow, 酸化還元電位測定により解析する。また、詳細な高次構造を知るため、良質の標品を用いた高分解能X線結晶構造解析を目指して、Lipid Cubic Phase(LCP)法を利用した結晶作成に挑む。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究開始当初、EPR装置に使用するための冷却水循環装置が故障し、新規の冷却水循環装置を急遽購入する事になった。そのため、当初の配分予算額を増加してもらうという措置をとったが、その後に計画的に予算を執行する事によって、できるだけ申請時に計画していた予算配分に沿った形となるようにしたためである。
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次年度使用額の使用計画 |
当初の予算計画に従い、分子生物学関連の実験を行うための各種試薬やキット及び各種プラスチック消耗品などを購入する予定である。
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