研究課題
本研究では、研究代表者の柴山が開発した独自のヘモグロビン分子の調製法と結晶化技術に、高繰り返し光解離法と低温捕捉X線解析法を組み合わせて、配位子光解離後のヘモグロビン分子内動態の直接観測を目指している。これまでに、高エネルギー加速器研究機構のビームタイムを利用して、以下の成果を上げた。(1)T状態CO結合型ヒト・ヘモグロビン結晶を対象としたCO光解離前後の単結晶X線構造解析を行い1.45Å分解能のデータセットを取得した。T状態では、ほぼ完全な光解離が達成され、α鎖中とβ鎖中のCOの移動経路をそれぞれ明確に同定することができた。また、COをタンパク質外へ送り出すアミノ酸側鎖の動きも明確に観測することができた。(2)R状態CO結合型ヒト・ヘモグロビン結晶とR2状態CO結合型ヘモグロビン結晶を対象としたCO光解離前後の単結晶X線構造解析を行い、それぞれ1.60Å分解能と1.70Å分解能のデータセットを取得した。これらの試料の光解離収率は50%弱とT状態のそれよりは低かったが、差フーリエマップでCOの移動経路とアミノ酸側鎖の動きをそれぞれ追跡することができた。(3)T状態CO結合型ニジマス・ヘモグロビン結晶(pH 6.0)を対象としたCO光解離前後の単結晶X線構造解析を行い1.2Å分解能のデータセットを取得した。差フーリエマップでCOの移動経路を追跡すると共に、硬骨魚類特有のルート効果(低pHで酸素親和性が著しく低下する現象)を説明するアミノ酸側鎖の動きをとらえることができた。上記(1)(2)の研究成果は最終年度に米国科学会紀要『PNAS』に論文発表し、自治医科大学ホームページで公開するとともに、プレスリリースも行った。(3)については、現在、データをまとめて発表の準備を行っている。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件)
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