研究課題/領域番号 |
16K07327
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
今井 洋 大阪大学, 理学研究科, 助教 (60391869)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ダイニン / 分子モーター / クライオ電子顕微鏡 / 微小管 |
研究実績の概要 |
すべての生物は細胞から構成されている。ヒトの細胞の中で、ATPの化学的なエネルギーを利用して、様々な物質が、能動的に輸送されている。多くの人が住んでいる大都市を1細胞と例えると、その中で通勤電車、自動車やトラックが鉄道や幹線道路などを使って人々や食料品、生活雑貨を輸送していることと類似している。この輸送が滞ると大都市では生活が成り立たなくなるのと同様に、細胞内での輸送が滞ると細胞に傷害が発生したり、重篤な場合には細胞死へと至る。 細胞質ダイニンは微小管と呼ばれる細胞骨格に沿って、細胞内輸送を能動的に行うタンパク質である。例えば、細胞質ダイニンの輸送が、神経細胞で滞ることと神経変性疾患と関連することが明らかとなっている。 細胞質ダイニンは、ホモ2量体であるので、細胞質ダイニンはあたかもヒトが二足歩行するように運動するだろうと推定されている。しかし、ヒトの二足歩行と違う点は、歩行中に両足が微小管から離れてしまうと、重力で、元の位置には着地できず、ブラウン運動のため溶液中に細胞質ダイニンが拡散してしまい、微小管から外れてしまうことである。このため、長距離に渡り細胞質ダイニンが微小管の上を歩行するには2つのモータードメイン間で情報交換が起こっていることが予想されている。 そこで、微小管に結合している細胞質ダイニンの2つのモータードメイン間の相互作用の構造学的な基盤を明らかにすることを目指して研究している。さらに、微小管から外れた状態の細胞質ダイニンも構造を調べたところ、2つのモータードメイン間で相互作用していることがわかってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度までに、微小管に結合してATP存在下で歩行運動を行う細胞質ダイニンのクライオ電子顕微鏡写真を撮影することができている。その画像処理を行うためには、クライオ電子顕微鏡写真に写っているすべての微小管の極性を決めなくてはならない。先行研究では、これをすべて手動で行い、1,000本の微小管の極性を決めるのに、約1年間を要した。この微小管の極性決定の画像処理のほとんどを自動化して、1,000本の微小管の極性が1週間で決めることができるように、新たなプログラムを作成した。そして、微小管の極性が決まった微小管に結合した細胞質ダイニンの構造を切り出した。その2つのモータードメインの間の距離の分布を得ることに成功した。 さらに、微小管から離れた細胞質ダイニンの構造をATP存在下で、化学固定してネガティブ染色することで、電子顕微鏡写真を得た。この電子顕微鏡写真を多数撮影して、その2次元平均構造を単粒子解析法で計算した。その結果、2つのモータードメインが接触している構造が得られた。さらに、この構造には、新規の構造揺らぎがあることが初めて明らかとなった。 上記2つの成果を日本生物物理学会年会で発表した。
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今後の研究の推進方策 |
微小管に結合した細胞質ダイニンのクライオ電子顕微鏡写真については、さらに撮影を続けて、得られた構造の解像度を上げる計画である。そして、微小管から離れた細胞質ダイニンについては、新たにクライオ電子顕微鏡で観察して、撮影を行い、構造解析を行う予定である。 これらの結果をまとめて、今後、論文に投稿する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年6月に発生した大阪北部地震の影響で、クライオ電子顕微鏡が長期間故障した。その間のクライオ電子顕微鏡の実験に必要な消耗品の支出を、次年度に繰り越した。
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