研究課題/領域番号 |
16K07329
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研究機関 | 公益財団法人サントリー生命科学財団 |
研究代表者 |
山本 竜也 公益財団法人サントリー生命科学財団, 生物有機科学研究所・統合生体分子機能研究部, 研究員 (70437573)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 質量分析 / タンパク質 / 構造 / 相互作用 |
研究実績の概要 |
質量分析とH/D交換反応を利用して、大量発現系を用いずに目的とする生体試料から直接微量タンパク質を取り出し、その構造変化をみるという課題に挑んでいる。本年度は主に微量分析に向けた基盤構築を行った。交換反応条件の試薬、pH、温度、手順、質量分析パラメータについて網羅的に探索し、安定して結果が得られる方法の確立を行った。また実験プロトコルとは別に、現存の方法論では捨ててしまっている精密質量データを解析段階で十分に生かすことと、解析速度の向上を目指してJava言語によるGUI形式の専用ソフトウェア開発を行った(ソフトウェア名:XD scipas)。これまでは、質量分析の結果が複雑な同位体の混合スペクトルとして得られるため解析が難しく、H/D交換質量分析は一般的な手法として広まっていなかったが、wet研究者である自らが解析ソフトを作成することで、高精度かつ高速な解析を実現することに成功した。本ソフトを実際のスペクトルに応用した結果、これまで生かせていなかったリフレクトロン型分析計による高分解能スペクトルのデータが十分に活用できるようになり、交換水素の個数とその存在比を精度よく観察できることがわかった。さらに解析の自動化を極限まで追求した結果、複数データを単一フォルダに入れておくだけで一斉解析できるようになり、構造解析で問題となる解析時間(NMRなどでは数週間かかる)がほぼゼロで行えるようになっただけでなく、複数サンプルのスクリ-ニングなどへの応用も可能になった。今後は28年度に構築した基盤を基に培養細胞や組織から直接抽出したタンパク質群への応用を進めていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度である28年度の実験や基盤構築経過は予定通り順調に進み、得られた成果は想定を超えたものとなった。特に実験条件探索による結果の安定化と、ソフトウェア開発による解析の高精度化・高速化・自動化は計画時に想像していたものよりもはるかに良いものとなった。申請者が進めている研究手法は比較的シンプルな手順で溶液構造を知ることができるため広く応用できる可能性を秘めているが、実験データの安定性や解析の困難さから一般に広まっていなかった。本年度の成果で、より一般的なものになる道筋ができたため、今後の研究で実例を増やすことにより方法論としても論文などを通じて広めつつ、細胞増殖のシグナル伝達を中心に分子メカニズムを明らかにしたい。
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今後の研究の推進方策 |
28年度に構築した実験手法や解析ソフトといった基盤技術を基に、29~30年度の2年をかけて目的生物の細胞や組織から直接タンパク質群を抽出し溶液構造解析を行う。具体的にはAdenylate kinase、やMAPRファミリータンパク質といった細胞増殖を担うタンパク質群を中心に結合タンパク質探索を行い、それらとの構造学的な相互作用解析を行う。本研究を通じて大量発現系を用いることなく翻訳後修飾やタンパクの量比が適切な状態での溶液構造解析を実現し、in vitroな構造解析とin vivoでの表現型をつなぐ研究成果を得たい。また本年度開発した手法やソフトウェアを公開・改良することで、他の研究者が新たなタンパク質間ネットワークのメカニズム発見やメカニズムを解明する一助になるよう論文化を勧める。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験手法の改良とその応用で28年度に論文化を計画していたが、解析プログラムの開発が想定以上に良いものであったため、その完成を待って内容を拡充した上で29年度に論文化を目指しているため、その費用を持ち越した。
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次年度使用額の使用計画 |
持ち越した分は、主に論文化のための費用でその他は計画通り。
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備考 |
研究を進めるためにH/D交換質量分析の解析ソフトを作成した。
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