研究課題/領域番号 |
16K07331
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
神谷 成敏 兵庫県立大学, シミュレーション学研究科, 特任教授 (80420462)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 自由エネルギー / 分子動力学シミュレーション / 構造予測 |
研究実績の概要 |
タンパク質-薬剤の複合体構造や親和性を効率的かつ高精度に予測する計算方法の開発を行った。本法はAdaptive Umbrella Sampling法(AUS法)によるタンパク質と薬剤のドッキングシミュレーションである。薬剤はあらかじめ決められた空間内や経路上をランダムウォークすることで、ある状態にトラップされることなく結合状態と解離状態を効率的に探索し、複合体構造や結合自由エネルギー、結合に重要なアミノ酸残基を高精度で得ることができる。本年度は、下記1から3を実施した。1.分子動力学計算プログラムGromacsにAUS法を系のポテンシャルエネルギーやリガンドの重心位置を反応座標として実装した。なお、前者はマルチカノニカル分子動力学法(McMD法)として知られている。2.タミフルのノイラミニダーゼからの解離経路をRandom Acceleration Molecular Dynamics法(RAMD法)によって探索した。初期構造としてノイラミニダーゼの野生株とタミフルの複合体を用い、タミフルのパラメータは量子化学計算によって作成した。原子の初期速度が異なる100個のRAMDシミュレーションを実行し、全てにおいて解離状態を得た。得られた解離経路から3で使用する探索領域を決定した。3.McMD法によりノイラミニダーゼとタミフルのドッキングシミュレーションを実施し、結合/非結合状態を探索することで結合自由エネルギー最安定構造が天然構造であることを示すことに成功した。また、タミフルの重心位置を反応座標としたAUSを実施した。現在、反応座標に沿ったヒストグラムの収斂を高めるために、二次元の反応座標を導入したAUSシミュレーションを実施している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
プログラムの作成が完了し、天然株のノイラミニダーゼに対して同プログラムを用いた複合体構造予測が成功したから。
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今後の研究の推進方策 |
野生株のノイラミニダーゼとタミフルの二次元の反応座標によるAUSシミュレーションを引き続き実施し、その計算効率や計算精度を検証する。変異体のノイラミニダーゼと薬剤タミフルに対して、計算系の作成や、結合経路探索、AUS法による複合体構造予測と自由エネルギー計算、文献値との比較を実施する。最後に、野生株と変異体の結合自由エネルギー差を求め、突然変異と薬剤親和性の関係を実験では観測困難な結合過程、並びに結合状態の立体構造に基づいて議論する。 アミロイドβペプチドと抗体薬ソラネズマブにおいて、計算系の作成を作成する。全長40アミノ酸残基から成るアミロイドβペプチドの内、17残基が複合体構造として解かれている。まず、この17残基のアミロイドβペプチド断片とソラネズマブ、水、イオンから成る系を作成する。次に、結合経路探索、AUS法による複合体構造予測と自由エネルギー計算、文献値との比較を実施し、本申請の方法論を検証する。 最後に、全長40アミノ酸残基から成るアミロイドβペプチドと抗体ソラネズマブの計算系の作成、結合経路探索、AUS法による複合体構造予測と自由エネルギー計算を実施する。シミュレーションによって得られた反応座標に沿った立体構造や自由エネルギー値からアミロイドβペプチドの抗体薬への分子認識に重要なアミノ酸残基を同定する。また、得られた複合体構造から全長のアミロイドβペプチドがソラネズマブと強固に結合する理由を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者が年度途中で理化学研究所から兵庫県立大学に異動のため、計算サーバーの導入に時間を要し、計算サーバー導入が1台にとどまったため。
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次年度使用額の使用計画 |
計算サーバーを複数台購入し、円滑にシミュレーションを実施する。
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