タンパク質-薬剤の複合体構造や結合の強さを効率的かつ高精度に予測する計算方法の開発を行った。本法は分子動力学法による、タンパク質と薬剤のドッキングシミュレーションに基づく。あらかじめ決められた空間内を薬剤がランダムウォークするようにバイアス力を加えることで、ある状態にトラップされることなく結合状態と解離状態を効率的に探索し、複合体構造や結合自由エネルギー、結合経路から結合に重要なアミノ酸残基を高精度で得ることができる。本年度は、下記1から3を実施した。 1. アミロイドβペプチドと抗体薬ソラネズマブにおいて、全長40アミノ酸残基から成るアミロイドβペプチドのうち、13残基が複合体構造として解かれている。昨年度から継続して実施している、ペプチド断片とソラネズマブ、水、イオンから成る系のマルチカノニカル分子動力学法(McMD)を完了した。得られたトラジェクトリから自由エネルギー地形を作成したところ、天然構造が自由エネルギー最小領域に分布し、複合体構造を正確に予測することに成功した。 2. 自由エネルギー最小領域に分布した2構造をそれぞれの初期構造として、McMDトラジェクトリから抽出することで、解離経路を求めた。これらの経路に沿ったUmbrella Sampling法による自由エネルギー計算を実施し、結合自由エネルギーを求めたところ、ピコMオーダーの強い親和性があることが示され、実験値を良く再現することが確かめられた。 3. 自由エネルギー最小領域に分布した2構造をそれぞれの初期構造として、全長のアミロイドβペプチド(40アミノ酸残基)が結合したモデルを作成した。作成した2種類のモデルから、アミロイドβペプチドC末端側はフレキシブルな状態でN末端側が抗体と強く結合することが明らかになった。
|