研究課題/領域番号 |
16K07332
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
広瀬 恵子 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 主任研究員 (90357872)
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研究期間 (年度) |
2016-10-21 – 2020-03-31
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キーワード | 分子モーター / 微小管 / 鞭毛・繊毛 / 電子顕微鏡 / DNA折り紙 / 光ピンセット |
研究実績の概要 |
軸糸外腕ダイニン分子は、微小管上に規則的に結合し、鞭毛・繊毛の周期的屈曲運動に働くが、その制御のしくみは明らかでない。本研究では外腕ダイニン分子と微小管の複合体を作成し、微小管同士を架橋する構造を付加することにより運動中の複合体の解離を防ぎ、力発生中のダイニンを急速凍結して電子顕微鏡観察できるような系を構築する。 まず、クラミドモナス鞭毛から抽出した軸糸外腕ダイニンをin vitroで重合した微小管に結合させ、二本の微小管の間にダイニンが規則的に並んだ複合体を作成した。二本の微小管を架橋するダイニンには、ストーク先端の微小管結合部位がどちらの微小管に結合するかにより二種類の向きがあるが、これらは逆向きに力を発生することが予想される。電子顕微鏡観察では、二種類の向きのダイニンがパッチをつくって結合していた。複合体にcaged ATPの光分解によってATPを加え、微小管同士の滑り運動が起こることを、蛍光顕微鏡を用いて観察した。 次に、力発生時に微小管が滑り合って複合体が解離するのを防ぐため、微小管同士を架橋する構造として長さ約80 nmの棒状のDNA折り紙構造体を作成し、複合体に結合させた。DNA折り紙架橋の結合角度を電子顕微鏡観察で調べたところ、ATP非存在下では微小管に対して垂直な角度を中心とした分布を示したが、ATP添加後は角度のバラツキが大きくなった。この結果は、ATP添加によって微小管同士が滑り合い、DNA架橋が傾いたことを示す。 さらに、DNA折り紙で架橋したダイニン・微小管複合体の運動を、光ピンセット法で調べた結果、多くの複合体が自律振動的な往復運動を示すことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
軸糸ダイニン・微小管複合体を作成し、DNA折り紙構造を用いて架橋することにより、運動機能をもつとともに、電子顕微鏡構造解析に使用できる系を作成することができた。この過程で、運動機能をもつ複合体の作成や、架橋に適したDNA折り紙の作成、複合体への結合、架橋した軸糸ダイニン・微小管・DNA折り紙複合体の光ピンセット法による運動機能測定などにおける条件検討に予想以上の時間を要し、構造解析の進捗が遅れた。一方で、運動解析において非常に興味深い結果を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
光ピンセット法による運動計測でこれまでに得られた結果についての解析を進める。また、軸糸ダイニン・微小管・DNA折り紙複合体の構造を急速凍結してクライオ電子顕微鏡観察し、ATP非存在下とATP存在下での構造を比較する。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度、追加採択(2016.10.21-)で開始が半年以上遅れたため、未使用額がかなり発生し、2018年度にも持ち越すことになった。2018年度中途からの研究補助員を雇用して研究を行った結果研究の進捗が大幅に加速したため、2019年度は上半期に引き続き研究補助員を雇用するとともに、論文発表、学会発表などに予算を使用する予定である。
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