研究課題
私たちはこれまでに、Soloが中間径フィラメントの一つであるケラチン8/18繊維と結合し、その結合がメカノストレス応答に寄与していることを明らかにしてきた。ケラチン繊維はデスモソームにおいてプラコグロビンやデスモプラキンによって、また、ヘミデスモソームおいてプレクチンによって細胞膜へ連結されており、これらの構造や分子を介したSoloの活性化機構と機能の解明を目的として研究を進めている。本年度は、イヌ腎上皮MDCK細胞の集団移動のモデルを構築し、Soloの発現抑制による効果を解析した。その結果、集団移動の移動速度がSoloの発現抑制によって上昇することが明らかとなった。細胞が集団を形成していない場合は細胞の移動速度は集団移動の場合よりも倍以上速く、その移動速度にSoloの発現抑制は影響しなかった。これらの結果から、細胞間接着部位にSoloを介して発生する張力が集団移動において個々の細胞のブレーキとして働くことが示唆された。これは細胞間接着部位からのケラチン繊維を介した張力の刺激がSoloを活性化することを示唆したため、ケラチン8/18繊維を細胞間接着部位へ連結させるプラコグロビンと関係を解析した。その結果、Soloの発現抑制によってプラコグロビンの細胞間接着部位における局在量が減少することが明らかとなった。また、ケラチン18の発現抑制によるケラチン8/18繊維ネットワークのかく乱はやはり集団移動を加速した。Soloは張力の刺激によるRhoAの活性化に寄与することをこれまでに明らかにしており、Soloがプラコグロビンの局在を制御する上流因子であると共にこれらの分子を介した張力によって活性化する下流分子である可能性も示唆された。そのため、Soloとプラコグロビンの結合を検討した結果、Soloとプラコグロビンが細胞内で結合していることを見出した。
2: おおむね順調に進展している
Soloの機能解析のために上皮細胞の集団移動をモデルに検討を行い、集団移動の速度の制御にSoloが重要であることを見出した。この分子メカニズムを解析するために、計画したデスモソームの構成蛋白質の一つであるプラコグロビンとSoloの関係を解析し、それらが細胞内で結合していることを見出している。さらに、Soloの活性化機構、局在に寄与する蛋白質を同定するためにSoloの結合蛋白質をビオチン化酵素を用いた新たなプロテオミクス解析方法で探索する準備を進めている。また、Soloの機能解析、シグナル伝達経路の解明のための強力なツールとして開発を計画している細胞間に作用する張力を可視化する高感度テンションセンサープローブの開発に着手した。デスモソームやヘミデスモソームにおいて細胞膜とケラチン繊維を連結するデスモプラキンやプレクチンをベースとしたテンションセンサープローブの開発を計画したが、細胞外にテンションセンサーユニットの円順列YFPを配置する必要があることが明らかとなったため、カドヘリンをベースとしたプローブの基本構造を作製した。今後のSoloの機能解析に寄与する準備が整いつつあり、概ね順調に計画は進んでいる。
1.Soloと相互作用する蛋白質の網羅的探索Soloと細胞内で相互作用し、Soloの局在、活性を制御する分子の探索を行うために、大腸菌由来のビオチン化酵素を用いたプロテオミクス解析を行う。これまでにプローブ分子を作製し、ヒト乳癌由来MCF7細胞を用いたプローブ分子の恒常発現細胞株の樹立を進めている。同定した蛋白質について、Soloの上流シグナルとの関連とメカノセンサー分子である可能性を検討する。2.力負荷刺激によるSoloを介したメカノシグナル伝達経路の解析細胞間接着からの張力がSoloを活性化し、細胞の集団移動に寄与することが示唆されたため、プラコグロビンを介した張力がSoloを活性化する可能性とSoloがプラコグロビンの局在を制御する可能性を想定してシグナル伝達経路の解析を行う。Soloの発現抑制によるRhoAの活性低下に対するプラコグロビンの過剰発現の効果とプラコグロビンの発現抑制によるSoloの活性変化をRhoA変異体を用いた活性型Soloのプルダウン実験を行い検討する。また、前項で同定されてくるSolo関連分子について同様の解析を行い、細胞間に作用する張力を感知するシグナル伝達機構を解明する。3.テンションセンサープローブの開発細胞間の張力を可視化するテンションセンサープローブのセンサーとして用いる円順列変異体YFPは、細胞内のpH変化などによって蛍光輝度が変化する可能性が示唆されたため、円順列変異体YFPを細胞外に配置することにした。そのため、E-カドヘリンをベースとして円順列変異体YFPを細胞外ドメインの細胞膜付近に配置する設計とし、これらの基本構造をこれまでに作製した。様々な円順列変異体YFPを組み込んだプローブを作製し、細胞間への張力の負荷、又は、ミオシンの阻害による張力の消失によって蛍光輝度の変化するテンションセンサープローブを作製する。
今年度は、上皮細胞の集団移動について解析を行うと共にプロテオミクス解析の準備、テンションセンサープローブの作製を進めてきた。その過程で、作製する組み換え遺伝子が予想より順調に作製できたこと、細胞観察が効率良く行えたため、消耗品にかかる費用、共通機器の顕微鏡の使用料が節約できた。H29年度は、プロテオミクス解析を行うこと、テンションセンサープローブの開発で試薬や共通機器の顕微鏡の使用料が多くかかると見込まれることから、次年度使用額が生じた。
H29年度は、プロテオミクス解析により多くの生化学実験を行うこととテンションセンサープローブの開発で共通機器の顕微鏡を使用する予定である。そのため、生化学実験に必要な試薬を購入する物品費として、また、共通機器の顕微鏡を使用する使用料として使用する計画である。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
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http://www.biology.tohoku.ac.jp/lab-www/mizuno_lab/