真核生物の鞭毛繊毛運動制御機構を明らかにするため、本申請課題の研究期間においては、材料として扱いやすく反応が顕著に観察できる海産生物精子を用いて、「鞭毛運動活性化」、「鞭毛波形の非対称性制御」の現象に着目し、運動解析・イメージング技術とプロテオミクス技術を融合することにより、鞭毛繊毛運動制御に重要な新規調節因子の解析とその機能解明を目指している。 今年度は、平成29年度に構築したUVLEDを組み込んだ実験系を使用し、膜透過性ケージドcAMPを取り込んだカタユウレイボヤ精子の細胞内cAMP濃度上昇に伴う鞭毛運動変化を高速カメラおよびカルシウムイメージングシステムにより解析した。運動活性化前の精子に精子頭部、鞭毛それぞれ局所的なcAMP濃度上昇を誘導した結果、形成された鞭毛波に違いが見られた。また運動中の精子にUV照射を行った結果、cAMP増加により波形の非対称性の増加とその後の対称化が連続的に起こったが、カルシウム非存在下では波形の対称化のみが生じた。これらの結果から、cAMPがカルシウムイオンによって決定される鞭毛波の対称・非対称性に対して調整的な役割を果たしていることが示唆された。さらにリン酸化部位を認識する抗体を用いて運動変化に対応してリン酸化するタンパク質の特定に取り組んだ。 これらの成果の一部について、第13回国際精子会議、日本生物物理学会第56回岡山大会において口頭発表を行った。解析に関する総説をMicroscopy誌に発表した。ホヤ精子走化性物質受容機構に関する共同研究成果をSci. Rep.誌に発表した。本研究で構築改良した運動解析系を活用した共同研究をSci. Rep.誌、Zool. Sci.誌、Biol. Open誌、J Photochem Photobiol B.誌に発表した。
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