研究課題/領域番号 |
16K07338
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
中野 賢太郎 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (50302815)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | テトラヒメナ / 細胞質分裂 / 核分裂 / 繊毛運動 / 微小管 / アクチン / 細胞骨格 / 原生生物 |
研究実績の概要 |
繊毛虫テトラヒメナのユニークな細胞分裂の分子機構の解明を目指し、1.アクトミオシン非依存的な分裂溝形成に必要な遺伝子の同定、2.テトラヒメナの細胞表層全体にある多数の基底小体 (BB) から、分裂面の BB が選別されて分裂溝の形成を誘導する機序、3.細胞分裂時に分裂溝直下のアルベオラーサック (AS) が適切に分配され、娘細胞に伝搬されるしくみの研究に着手した。 1については、細胞分裂変異株の原因遺伝子を特定するため、ベクターの改変と形質転換効率を高める検討を行ったが、これまでに十分な条件を確立するには至っていない。一方、我々が薬剤スクリーニングで目星をつけた細胞分裂に働く蛋白質キナーゼ群について、分子系統解析と発現量を検討し、まず2つのキナーゼの細胞内局在性を調べた。GFP 発現細胞を作成した結果、いずれも BB に局在したが、分裂面とそれ以外の細胞表層領域に分布するものとで、局在量に違いは見られなかった。しかし興味深いことに、片方のキナーゼは分裂期初期の BB に分布し、分裂期の進行とともに縦行微小管に移行した。このような局在様式の変化を示す蛋白質はこれまでに知られておらず、その生理的意義は不明である。そのため、研究2に関連し、当該蛋白質の遺伝子を破壊する等の実験の必要性がある。 2については予定分裂面の BB に限局するCMB1 に着目し、cmb1 遺伝子破壊株を作成した。しかし、この遺伝子破壊株は正常に分裂・増殖できた。テトラヒメナのゲノムには、CMB1 に類似の遺伝子は見当たらない。そのためテトラヒメナは、CMB1 の経路とは別に細胞分裂面を決定するしくみを有すると推察した。 3については、AS に付随するエピプラズム層構成蛋白質TCBP25を GFP で標識した細胞株の作成を試みたが、残念ながら成功には至っていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
解析が遅延した原因に、遺伝子組換えコンストラクトの構築の効率が悪かったこと、また導入した GFP の蛍光が弱く、細胞の自家蛍光に押されて観察しにくかったこと等が挙げられる。これらの改善を、導入用コンストラクトの構築に用いる PCR プライマーの設計の工夫や、GFP を高発現する細胞株をクローニングすることで計る。そのため現在、ベンチャー企業の協力を得て、テトラヒメナを1細胞ずつ単離・培養し、遺伝子組換え効率の良いクローンをスクリーニングする系を検討している。また前述のTCBP25-GFP細胞株の作成が成功していない原因として、連結した GFP が当該蛋白質の細胞内機能を阻害した可能性や、導入したコンストラクトの発現量が高すぎて細胞毒性を生じた可能性が考えられる。前者の問題点は適切なリンカー配列用いることで、後者については発現量の弱いプロモーターを用いることで克服できると考えている。またTCBP25 以外に、アルベオリンなどの AS に特異的に局在化することが知られる蛋白質を標的にし、AS の細胞分裂時の動態を顕微鏡観察するための細胞株を樹立する計画である。 一方、前述の解析に関連し、H29年度以降に計画していた生細胞の経時観察系の確立とロトキネシスの研究が ABiS の研究支援課題として今年度に採択された。そのため、前倒しして研究を開始した。まずテトラヒメナのロトキネシスの力学的特性とその制御機構を理解するため、野生型細胞の繊毛運動波形を高時間分解能且つ高空間分解能での計測を試みた。その結果、従来よりも明瞭な繊毛運動波形の記録取得に成功した。しかし、分裂細胞の表層全体の繊毛運動パターンを記録することは極めて難しいことも判明した。今後は、セミインタクト細胞や単離表層を用いた繊毛運動の観察系や、特殊微細加工を加えた石英薄板上に細胞をトラップして観察する系の構築を検討する。
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今後の研究の推進方策 |
前述の解析1~3について、以下のように研究を進める。 1については、我々が薬剤スクリーニングで見出した細胞分裂に働く蛋白質キナーゼ群について、解析対象とする遺伝子を増やし、前年度と同様に局在解析を進める。さらに前年度に同定した興味深い局在性変化を示すキナーゼについては、遺伝子破壊あるいはドミナントネガティブ型変異体の発現等の手法を用いて、その細胞機能を探る。また、ABiS や企業の協力のもと、細胞表層の繊毛運動や分裂溝表層の変化を高分解能で効率良く観察可能な系の構築を進める。これらの実験系の確立ができなくても、分裂細胞のカルシウムイオン変化を計測するためのイメージングを行えるように、脱繊毛した細胞で細胞分裂を記録できるか実験的に調べて、使用するのに適切なカルシウムセンサーと細胞への導入方法を検討する。 2については、GFP-CMB1 発現細胞を用いて、先行研究で示された分裂期細胞の中央領域の基底小体への局在性を確認する。そうすることで、CMB1 の細胞分裂への機能の重要性を再確認した上で、GFP-CMB1 発現細胞の抽出液を、GFP 結合蛋白質(GBP)でプルダウンし、結合蛋白質を質量分析等により調べ、CMB1の結合因子を同定する。その結果、細胞表層全体に分布する基底小体の中から、分裂領域の基底小体が選択されるための分子経路を明らかにする。また、CMB1 以外に分裂面決定に関与すると思われる MOR-NDR 経路の機能解析に着手する。 3については、上述したように工夫し、引き続き TCBP25-GFP で標識した細胞株の作成を試みる。さらに、アルベオリンや膜の動態制御に働く低分子量 GTPase などのうち AS に特異的に局在化するものを標的にし、AS の細胞分裂時の動態を顕微鏡観察するための細胞株を樹立する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の助成金で支払うべき請求の一部(およそ3万円)を、私のミスで本学の会計入力システムに重複して入力し、それに気がついたのが年度末であった。その時点で消耗品を購入することも考えたが、それよりも次年度に持ち越して使用する方が、より適切だと判断したため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額として29612円は、培養器具等の消耗品の購入に充てる費用の一部とし、本研究の遂行に有益に使用したい。
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