哺乳動物の腎臓の糸球体は、尿生成の第一ステップである血液濾過を行う器官である。その為、糸球体の毛細血管壁には選択的な濾過を可能にするための構造的に特徴的な濾過障壁(バリアー)が形成されている。この濾過障壁は血管内皮細胞、基底膜、足細胞の三層構造から成っているが、その構造異常は腎疾患を誘発することが知られている。しかしながら、濾過障壁がどのようにして形成・維持されているか、その分子機構については不明点が多い。我々はこれまでのADGRF5(GPR116またはIg-Heptaとも呼ばれる)の欠損マウスの解析から、ADGRF5が糸球体血管内皮に発現し、糸球体濾過障壁の構造維持に関与することを見出した。本研究の目的は、糸球体血管内皮細胞におけるADGRF5の機能を明らかにし、濾過障壁の恒常性維持とその破綻による病態発症のプロセスを分子レベルで説明できるようにすることである。平成30年度では、前年度までに明らかにしているADGRF5欠損マウスの糸球体血管内細胞における遺伝子発現変化が他の血管内皮細胞(主に肺血管内皮細胞)においても同様に認められるかについて比較解析を行った。その結果、糸球体血管内細胞における遺伝子発現変化のうち、濾過障壁の主要構成成分(基底膜タンパク質)については肺血管内皮では同様な変化は認められなかったものの、一部、炎症性分子の発現上昇については両者ともに認められた。したがって、濾過障壁維持におけるADGRF5の機能は細胞特異的なものであるが、免疫調節の役割は共通の機能である可能性示唆された。ADGRF5のリガンド探索(活性化機構の解明)であるが、引き続き力学的刺激である伸展(ストレッチ)刺激について解析中であり研究期間内に一定の結果を得ることができなかった。
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