研究課題/領域番号 |
16K07345
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
安達 良太 名古屋大学, 医学系研究科, 特任助教 (00436057)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 蝸牛神経核 / 脳幹切片培養 / 軸索起始部 / 活動依存的可塑性 / 電位依存性Kチャネル |
研究実績の概要 |
交付申請書において、今年度の研究計画として(1)軸索起始部可塑性の特性の解析と(2)軸索起始部の可塑性に関わる分子の同定、の2点を挙げた。(1)については、神経の活動を抑制すると軸索起始部が長くなり、これを実験系として(2)の研究に用いると書いた。しかしながらK+電流を阻害すると軸索起始部が短くなることを新たに見出した。そのため(2)の研究は軸索起始部が短くなる条件を用いて進めている。まだ候補分子は得られていないが、申請書に記述したCa2+やリン酸化酵素の影響を調べる事で何らかの分子が可塑性に関わるものとして得られると期待している。 (1)については軸索起始部の特性を解析するとともに、実験系として使用する培養脳幹切片における大細胞核神経細胞の特徴を調べる事も主な目的としている。蝸牛神経である大細胞核神経細胞は、その軸索起始部の長さも含め、神経核内の領域ごとに異なる性質を示す。ところが培養切片にすることでこの差がほとんどなくなる。今年度の研究により、培養液中のK+濃度を高くして慢性的な脱分極を誘導すると、高周波数域の細胞において低電位活性化型K+チャネル由来のK+電流が増大するというin vivoの発生段階に見られるものに近い性質が観察された。免疫染色の結果、高K+濃度条件にすることで高周波数域の細胞においてのみ低電位活性化型K+チャネルの局在が細胞質から細胞膜へと変化する事を見出した。これは神経核内の領域毎に細胞の活動や入力に対する反応性が異なる事を示しており、大細胞核の周波数域に応じた細胞特性の違いを作り出す機構を明らかにすることができるのではないかと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
神経への入力や活動を抑えると軸索起始部が長くなるということは申請書に記載したが、今年度、K+電流を阻害すると軸索起始部が短くなる事を見出した。これは培養切片内においてもin vivoと同様に軸索起始部がその長さを活動等に応じて自在に変化させる事ができることを示している。軸索起始部可塑性の特性を解析するという計画において進展が見られたと考える。この結果をもとに可塑性を引き起こすトリガーが何であるのか等、特性の解析をさらに進めていきたい また、今年度中に軸索起始部の可塑性関連分子をスクリーニングし、候補分子を得る事を目標の1つとしていた。しかしながら現段階ではスクリーニングを始めた所で、結果は得られていない。これには、培養脳幹切片内の大細胞核神経細胞における軸索起始部の可塑性について、上記の短くなるという変化が起こる条件を探していた事が原因として挙げられる。しかし候補分子のスクリーニングにあたっては、長さが短くなるものを指標とした方が各細胞の軸索起始部の示す長さの分布が狭くなるためばらつきが少なく、実験結果の精度が上がると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
申請書に記載の通り、軸索起始部の可塑性に関わる分子のスクリーニングを行う。また、軸索起始部の可視化を進める。これに関しては、ラットの海馬培養神経細胞において軸索起始部の可視化に成功している電位依存性Na+チャネルの全長とGFPの融合遺伝子を含むプラスミドを譲渡して頂いたので、これが我々のニワトリ大細胞核の系でも使用できるかどうかを確認する。その上で、利用できるのであればそのまま実験を進め、ニワトリで機能しないとなれば新たなプラスミドの構築が必要となる。 上記に加え、軸索起始部可塑性の特性解析として、可塑性を引き起こすトリガーについても調べたいと考えている。今年度の研究により、高K+濃度処理により慢性的な脱分極を起こしても軸索起始部は短縮しなかった。この濃度では細胞の性質は変化するが自発活動に変化は見られない。一方で軸索起始部の短縮が見られた電位依存性K+チャネルの阻害条件では細胞自体の興奮性が増大している。このことから活動の頻度が軸索起始部の可塑性に関与している可能性が考えられる。軸索起始部の可塑性にはCa2+が関与するとの報告があるが、そのCa2+制御に関して詳しくはわかっていない。可塑性を引き起こすトリガーと、可塑性関連分子を調べる事で、Ca2+を中心とした軸索起始部の可塑性シグナル伝達経路を明らかにしたい。
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