研究課題/領域番号 |
16K07349
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
笹村 剛司 大阪大学, 理学研究科, 招聘教員 (70647487)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 細胞キラリティ / 血球細胞 / ショウジョウバエ |
研究実績の概要 |
昨年度までに申請者は、フィロポディアの内部のアクチンフィラメントが回転していることを見出し、このアクチンフィラメントの回転が細胞質の流動を引き起こすことで、中心体の一方向への回転を生み出しているのではないかという仮説を立てました。この仮説を検証するためにフィロポディアアクチンの回転方向の決定を試み、最終的に山型のマイクロパターンを作成し、細胞を斜め方向から観察することで、回転方向の同定を行うことができました。当該年度には、野生型およびMyoID変異細胞のフィロポディアアクチンの回転方向を決定しましたが、その回転方向には差がなく、フィロポディアアクチンの回転は、細胞キラリティの形成には関与していないことが明らかになりました。 そこで次にラメロポディアのアクチンフィラメントに着目しました。ラメロポディアのアクチンは網目状に構成され、細胞の中心に向かって移動しますが、その移動に回転成分が含まれているのではないかと考え、アクチンフィラメントの移動を画像解析のひとつであるオプティカルフローを用いて解析しました。その結果、アクチンフィラメントの移動方向に中心体と同様の時計方向への回転成分が含まれていることが明らかになりました。さらに、中心体の回転と同様に、この回転方向はMyoID変異細胞で反転しました。 さらに、血球細胞のキラリティ生成の分子機構を明らかにするために、アクチン制御分子の機能阻害実験を行いました。培地に、さまざまな阻害剤を添加し、血球細胞の中心体の回転方向を決定しました。まだ、十分な数の観察が終わっていませんが、これまでの結果では、いくつかの分子の機能阻害により、中心体の回転方向が反転することが明らかになりました。 以上の結果は、血球細胞のキラリティがアクチンフィラメントにより形成されていることを明らかにし、さらなる分子機構の解明を行っていく基礎となります。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度の前半は、前年度に確立したマイクロパターンを用いた方法により、フィロポディアアクチンの回転方向を決定しました。野生型31、MyoID21のフィロポディアの回転方向が決定できましたが、どちらの場合も、回転方向に優位な差は観察されず、また、野生型とMyoID変異細胞間での回転方向にも有意な差は見られませんでした。この結果から、フィロポディアのアクチンフィラメントは細胞キラリティの生成に寄与していないことが明らかになりました。 そこで該当年度の後半では、アクチンフィラメントが形成するもう一つの細胞構造であるラメリポディアでのアクチンフィラメントの動態を、オプティカルフローと呼ばれる画像処理により、決定しました。決定した速度ベクトルを細胞の中心方向と回転方向に分離し、回転方向だけを1つの細胞内で積算した結果、野生型では時計回りの回転を示す細胞が多く存在し、中心体の回転方向と一致していることがわかりました。さらに、MyoID変異細胞ではこの方向が反転しました。以上の結果は、ラメリポディアにおけるアクチンの動きがキラリティを形成していることを示唆しています。 さらに、細胞キラリティ生成の分子機構を明らかにするために、アクチン制御分子の阻害剤による機能阻害実験を行いました。現在のところ、アクチン重合、Rock、Formin、II型ミオシン、Arp2/3複合体それぞれの阻害剤を、培養液に添加し、血球細胞の中心体の回転を観察しました。まだ十分な数の細胞を観察できていませんが、いくつかの阻害剤の添加により、細胞キラリティが反転する結果を得ています。 以上の結果は、血球細胞キラリティが細胞のどの構造に由来しているかを明らかにしており、フィロポディアのアクチンフィラメントの回転方向の決定に時間を要してしまったものの、着実に結果を出しています。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、細胞キラリティ形成の分子機構を明らかにしていく実験を行っていきます。まずは、現在行っている薬剤によるアクチン制御分子の機能阻害実験を、引き続き行っていきます。現在のところ、いくつかの阻害剤により、血球細胞のキラリティが反転することがわかっています。そこで、この結果を検証するために、それらの構成因子の二本鎖RNAを血球細胞に発現させることにより、これらの分子のノックダウンをおこない、キラリティを観察します。この実験により、薬剤による阻害実験がそれぞれの分子の機能を阻害しているために起こっているのかを検証していきます。 また、阻害薬が存在しないアクチン制御因子も数多く存在します。それらすべてのキラリティ形成への関与を検証することは困難ですが、阻害薬実験の結果から、どのようなアクチンの機能がキラリティ形成に重要であるかが、ある程度明らかにできると考えられますので、その機能を担っている因子に焦点をあててノックダウンを行っていくことで、細胞キラリティの生成機構を詳細に明らかにしていきます。 現在までの研究により、血球細胞においても、MyoIDがキラリティスイッチとして機能していることが明らかになり、細胞キラリティ形成の分子機構も明らかになりつつあります。そして、これらのキラリティ生成機構が哺乳類でも保存されている可能性があります。そこで、哺乳類でも細胞キラリティ生成の機構が保存されている可能性を検証するために、細胞キラリティが報告されているMDCK細胞を用いてMyoIDによるキラリティ制御機構が存在しているかどうかを検証していきます。
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次年度使用額が生じた理由 |
該当年度に行う計画であった、RNAi系統を用いたスクリーニングの進行がやや遅れており、その分を翌年度に行う必要があるため。 また、次年度に哺乳類の培養細胞を用いた研究を開始することを考えているため、その予算が必要となるために、繰越をおこないました。 使用計画としては、機器類はすでにあるものを使用するため、消耗品として使用する予定です。
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