研究課題/領域番号 |
16K07354
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
久下 理 九州大学, 理学研究院, 教授 (30177977)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | リン脂質輸送 / ミトコンドリア / ホスファチジルセリン / ホスファチジルエタノールアミン / ホスファチジン酸 / カルジオリピン |
研究実績の概要 |
ミトコンドリアは、外膜と内膜の二重の生体膜で囲まれており、それら生体膜は、カルジオリピン(CL)とホスファチジルエタノールアミン(PE)を豊富に持つ特徴的なリン脂質組成を示す。酵母と哺乳動物のミトコンドリアには、ホスファチジン酸(PA)からCLを生合成するために必要な一連の酵素とPEを合成するホスファチジルセリン(PS)脱炭酸酵素が存在する。しかしこれら酵素は、ミトコンドリア内膜の内層あるいは外層に局在するため、これら酵素によるCLとPEの生合成には、その合成原料となるPAあるいはPSがそれぞれ生合成された場所からミトコンドリア外膜に輸送され、さらにそれに引き続く外膜横断輸送と内膜への輸送や内膜横断輸送が必要である。従って、これら経路のリン脂質の輸送機構を解明することが、ミトコンドリアにおけるリン脂質代謝の理解に不可欠である。しかしこれまで、ミトコンドリア内でのリン脂質輸送機構は、ほとんど理解されておらず、当該輸送因子としては、外膜から内膜へPAを選択的に輸送でき、ヒトにオルソログを持つ酵母のUps1-Mdm35複合体が同定されているのみであった。そこで我々は、平成28年度、酵母のミトコンドリア内リン脂質輸送に関与する新規因子の同定を試み、その結果、Ups1のホモログであり、Mdm35と複合体を形成するUps2(別名Gip5)がPSのミトコンドリア外膜から内膜への輸送に関与することを明らかにした。さらに平成29年度には、ミトコンドリアのPEレベルが低下するとUps1-Mdm35に依存しない未解明のCL合成経路が活性化され、この新規経路にミトコンドリア内膜タンパク質のFmp30、Mdm31、及びMdm32が関与することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
Ups2の機能解明を試み、Mdm31と複合体を形成したUps2がミトコンドリア内でリン脂質輸送を行う機能を持つことを明らかにすることができた。この研究成果をJ Cell Biolに発表することができた。ミトコンドリアのPEレベルが低下するとUps1-Mdm35に依存しないCL合成経路が活性化され、この新規経路にミトコンドリア内膜タンパク質のFmp30、Mdm31、及びMdm32が関与することを明らかにした。この発見は、当初予想していなかった大変興味深い知見であり、研究成果をSci Repに発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
1) Ups1-Mdm31非依存新規CL合成経路の解明。 酵母のCL合成は、ミトコンドリア内PA輸送を行うUps1-Mdm35複合体に大きく依存しており、Ups1が欠損した酵母ではCLレベルが野生株の約20%にまで減少する。しかし、研究実績の概要の項で述べたように、平成29年度我々は、ミトコンドリアのPEレベルが低下するとUps1-Mdm35に依存しないCL合成経路が活性化され、この新規経路にミトコンドリア内膜タンパク質のFmp30、Mdm31、及びMdm32が関与することを明らかにした。そこで、平成30年度は、Fmp30、Mdm31、及びMdm32の詳細な機能解明を試みる。 2) ミトコンドリア内リン代謝・輸送におけるポーリンの役割解明。 我々は、既にこれまでに、Mdm31がミトコンドリア外膜に局在するチャネルタンパク質ポーリンの一つ、Por1に結合していることを明らかにし、Por1とそのホモログであるPor2が損傷すると酵母のCLレベルが著しく低下することを明らかにした。しかし、ポーリンがどの様にCL合成に関与しているかは現在不明であり、ミトコンドリア内リン代謝におけるポーリンの役割解明を平成30年度に試みる。具体的には、野生株とPor1/2損傷株のリン脂質代謝を放射性アイソトープ化合物を用いた代謝標識とパルス-チェイス実験により徹底的に解析し、Por1/2損傷株のリン脂質代謝における損傷点を明らかにする。さらにPor1に遺伝学的あるいは物理的に相互作用するさらなるタンパク質を同定し、その機能解析も進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:研究計画最終年度の平成30年度は、研究成果をまとめ論文発表を行うために、再現性を得るための実験を数多く行うことが必要であり、そのため多額の消耗品費が必要と考えられる。また、28,29年度の研究は予想以上に順調にすすみ、研究経費の面からも効率よく研究成果が得られた。そこで29年度の研究費の一部を30年度に使用することとした。 使用計画:研究を実施するにあたり、酵母細胞の培養・継代に必要な培地と変異株選択に必要な抗生物質、プラスチック実験器具、ガラス実験器具、脂質代謝を解析するための放射性薬品、分子生物学的解析に必要な試薬・実験器具、タンパク質の解析に必要な各種薬品、抗体等の消耗品が必要であり、研究費のほとんどは消耗品費に充てる。また、研究費の一部は、当該研究領域の国内研究者との研究打合せ、および国内成果発表のための旅費に充てる。
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