研究課題/領域番号 |
16K07356
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
吉田 秀郎 兵庫県立大学, 生命理学研究科, 教授 (60378528)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ゴルジ体 / ストレス / 細胞小器官 / 糖鎖 / プロテオグリカン / 転写 / 小胞体 / 神経 |
研究実績の概要 |
ゴルジ体ストレス応答は、細胞の需要に応じてゴルジ体の機能(糖鎖修飾機能や選別輸送機能)を増強する機構である。これまでにわれわれは哺乳類のゴルジ体ストレス応答の応答経路としてN型糖鎖修飾酵素の発現をTFE3経路を同定した。本研究課題では、O型糖鎖修飾の一つであるプロテオグリカン型糖鎖修飾を行う酵素の発現を制御するプロテオグリカン経路の分子機構を明らかにすることを目的としている。
今年度は、プロテオグリカン型糖鎖修飾酵素であるHS6ST1とNDST2、GLCE、B3GAT3、CSGALNACT2遺伝子のゴルジ体ストレス応答による転写誘導を制御するエンハンサーを同定し、PGSE配列と命名した。この配列は哺乳類のプロテオグリカン型糖鎖修飾酵素遺伝子だけでなく、脊椎動物のプロテオグリカン型糖鎖修飾酵素遺伝子にも広く保存された配列であることがわかった。
次に、このPGRE配列に結合して転写を誘導する転写因子を酵母two hybrid法によって単離することを試みた。ヒトHS6ST1遺伝子のPGSE配列を2個つないだものにレポーター遺伝子であるHIS3遺伝子につないでhis3変異株の酵母細胞に導入した。この細胞はhis3遺伝子が変異しているために、ヒスチジン欠損培地では生育することができない。この細胞に更にヒトcDNA libraryを導入した。もし、導入したcDNAから翻訳されたタンパク質がPGSE配列に結合してHIS3遺伝子の発現を誘導すると、この細胞はヒスチジン欠損培地でも生育できるようになる。このようなスクリーニング方法によって、現在いくつか候補遺伝子を単離しており、単離したものが転写因子をコードしているか、またPGSE配列に特異的に結合するかどうかなどについて、更に解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、エンハンサー配列の同定と転写因子の候補の同定まで進むことができた。これはほぼ計画通りの進捗状況である。但し、同定した転写因子候補以外にも転写因子が存在する可能性があるため、HS6ST1遺伝子のPGSE配列以外にもNDST2やGLCE、B3GAT3、CSGALNACT2遺伝子のPGSE配列を用いた酵母one hybridスクリーニングを行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
現在はHS6ST1遺伝子のPGSE配列を用いて酵母one hybridスクリーニングを行っているが、うまく行かない場合に備えて、NDST2やGLCE、B3GAT3、CSGALNACT2遺伝子のPGSE配列を用いた酵母one hybridスクリーニングも準備中である。これらのスクリーニングによって、PGSE配列からの転写誘導を制御する転写因子を網羅的に同定する計画である。
また来年度は、同定した転写因子の抗体を作製し、その抗体を用いて転写因子がゴルジ体ストレスによってどのような制御を受けているか解析する予定である。具体的には、蛍光抗体染色によって転写因子の細胞内局在性がゴルジ体ストレス時に変化するかどうか、またイムノブロットによって転写因子の分子量が変化するか、変化するとしたらそれはリン酸化なのかタンパク質切断なのか調べる。またノーザンブロットによって転写因子のmRNAを解析し、ゴルジ体ストレス時に転写因子をコードする遺伝子の転写が誘導されるのか、選択的スプライシングを受けるのか等について調べる。
更に、このような転写因子の変化を制御する制御因子を同定し、その制御機構を明らかにする。このような解析を順次シグナル伝達経路の上流に向かって進めていくことによって、最終的にはゴルジ体ストレス(プロテオグリカン型糖鎖修飾能力の不足)を感知するセンサー分子を同定し、そのストレス感知機構を明らかにするとともに、ゴルジ体ストレスの分子的実体を解明する。更に、同定した転写因子遺伝子を破壊した細胞株やノックアウトマウスをCRISPR-Cas9法によって確立し、その表現型を調べることによってゴルジ体ストレス応答のプロテオグリカン経路が果たしている役割を細胞レベル・個体レベルで明らかにする。これら一連の研究によって、プロテオグリカン経路の全貌(分子機構と生理学的役割)を解明する。
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