研究課題/領域番号 |
16K07358
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研究機関 | 高崎健康福祉大学 |
研究代表者 |
常岡 誠 高崎健康福祉大学, 薬学部, 教授 (50197745)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ヘテロクロマチン / リボソームRNA遺伝子 / ヒストン / ヒストンメチル化修飾 / KDM2A / zf-CxxC / SF-KDM2A |
研究実績の概要 |
真核生物の遺伝子はヘテロクロマチンとユウクロマチンの2種の高次構造をとりうる。この構造はゲノム領域によって異なり、また様々な状況に応じて変換される。リボソームRNA遺伝子(rDNA)は一つの細胞に約400コピー存在し、リボソーム形成に必要なリボソームRNAを産生している。しかしそのコピーの半数は転写されずヘテロクロマチンとして存在する。半数がヘテロクロマチンとして存在する生物学的意義、またこの状態の形成・維持機構はよくわかっていない。我々は脱メチル化酵素KDM2Aが核小体に集積し、rDNA promoterに結合すること、グルコース飢餓時に脱メチル化酵素活性を発揮し、rRNA転写を抑制することを明らかとしてきた。ところで、KDM2A遺伝子からはKDM2A蛋白質のほかに脱メチル化酵素活性を持たないSF-KDM2A蛋白質も作られる。そこでこの蛋白質について研究した結果、SF-KDM2AもKDM2Aと同様に核小体に集積することが分かった。さらにSF-KDM2Aはzf-CxxCドメインを介してrDNA promoterに結合すること、rDNA promoter上の転写抑制(ヘテロクロマチン)のマークであるH4K20me3を減少させ、rDNA転写を上昇すること、細胞増殖に貢献することが明らかとなった。これらの結果はSF-KDM2AによるrRNA転写上昇が癌の増殖を促すことを示唆しており、結果をまとめて論文とした(Int.J. Oncol. 2017)。zf-CxxCはユウクロマチン状態にあるpromoterに存在する非メチルCpGに結合する。また最近我々はヘテロクロマチン蛋白質HP1とKDM2Aが直接結合することを見出した。これ等の事からKDM2A産物がヘテロクロマチンーユウクロマチン両方の状態に影響し、クロマチン構造の転換に関与している可能性が考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1、SF-KDM2AによるH4K20me3調節:H4K20メチル化酵素Suv4-20h2に注目した。Suv4-20h2 KD実験から、Suv4-20h2はrDNA promoter上のH4K20me3を調節するという結果が得られた。しかし、Suv4-20h2 KDによってもSF-KDM2AによるH4K20me3のコントロールは起こった。このことはこの実験条件ではSF-KDM2AはSuv4-20h2を介さずにH4K20me3をコントロールしうることを示唆している。Suv4-20h2の効果が見えなかった理由として、Suv4-20h2以外のメチル化調節酵素、例えばSuv4-20h1を介した調節の存在が考えられる。 2、HP1によるKDM2A機能調節:HP1とKDM2Aが結合することを観察した。さらに、KDM2A中の特定のアミノ酸配列及びHP1のCSDを介して、HP1とKDM2Aが直接結合することを明らかとした。この結合依存的に核局在化しないKDM2A fragment がHP1により核局在化したことから、細胞内でもこの結合は有効であることが示された。そこで全長のKDM2Aについて検討した所、HP1との結合を失った変異KDM2Aは核小体周辺への局在性が野生型とは異なることが分かった。これらからHP1がKDM2AによるrDNA遺伝子発現調節に影響する可能性が考えられた。 3、KDM2Aの核小体周辺への集積に関連する因子の同定:核小体は膜構造で囲まれていない。従って核小体集積は核小体コンポーネントとの相互作用によるものと考えられる。そこで、SF-KDM2A fragmentの核小体集積に影響を与える因子の同定を試みた。700種の核小体蛋白質に対するsiRNA ライブラリーを用いてスクリーニングした結果、多数の候補因子を得た。
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今後の研究の推進方策 |
1、SF-KDM2AによるH4K20me3調節: 最近Suv4-20の酵素活性を抑制できる阻害剤が使用可能となった。この阻害剤はSuv4-20h1とh2 共に有効である。そこでこの阻害剤を使ってrDNA promoter上でのH4K20me3調節におけるSuv420酵素の関与を検討する。また、rDNAは半数のコピーはアクティブで半数は転写されずヘテロクロマチンとして存在している。このことが結果の解釈を難しくしている可能性がある。そこで、今年は遺伝学的に不活性でありヘテロクロマチン化されているサテライト配列についてSF-KDM2AとSuv4-20酵素のH4K20me3量への影響を観察する。 2、HP1によるKDM2A機能調節: HP1発現調節及びHP1変異体発現によるKDM2Aの核内局在への影響の詳細を検討する。また、特定の遺伝子上でのKDM2Aの蓄積量、KDM2A酵素の基質であるH3K36me2、及び今回明らかになったSF-KDM2Aが影響するヒストンマークH4K20me3の存在量に与えるHP1-KDM2Aの結合の影響を明らかとする。検討する遺伝子としてはrDNA遺伝子、ヘテロクロマチン領域としてサテライト配列、さらに活発に転写している遺伝子のプロモーターを取り上げる。また、rDNAなどの遺伝子の発現に与えるHP1発現調節及びHP1変異体発現の影響を検討する。 3、SF-KDM2Aの核小体周辺への集積に関係する因子の同定:候補蛋白質として核小体に局在化すると報告されているものが得られた。しかし核小体に局在化しない蛋白質も相当数得られた。これまでの結果から核小体局在性を示さないものがSF-KDM2Aの核小体局在に影響しないとは結論づけられなかった。そこで、得られた候補因子を先入観なく検討していく。また第2の選別法を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
SF-KDM2A fragment の核小体集積に影響を与える因子をsiRNAによりスクリーニングした。予想を上回る多くの候補因子が見いだされ、今後研究を進める蛋白質の選別に時間を必要とした。
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次年度使用額の使用計画 |
得られた候補因子を先入観なく検討していくことを計画している。そのため、SF-KDM2Aの核小体集積を調節しうる候補蛋白質に対する特異的siRNA、候補蛋白質のcDNA、特異抗体を購入する。また本研究の解析に必要なsiRNA、transfection 試薬、抗体等を購入する。
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