我々はKDM2AがHP1γと直接結合することを明らかとしたが、その生理機能への影響は不明であった。昨年までの研究により、HP1γはグルコース飢餓時のKDM2AによるrRNA転写抑制に必要であることが分かった。本年は上記結果を論文に仕上げることを目標に研究を進めた。まず、HP1γが及ぼすKDM2Aの核内局在への影響を検討した。核小体局在性はRNA ポリメラーゼIとの局在比較により行った結果、HP1γ KDがKDM2Aの核小体付近への集積を減らすこと、HP1γと結合しないKDM2A変異体は野生型と比べて核小体集積が減ることが観察された。近年HP1γはPhase Separation現象を起こす因子として注目されており、HP1により形成されるPhaseにKDM2Aが組み込まれる可能性も考えられる。以上の結果はHP1γがKDM2Aの核小体周辺への局在化を促進し、KDM2Aの核小体付近での濃度を高め、KDM2Aの核小体での機能(rRNA転写の調節)発揮に貢献することを示唆している。 次に、KDM2AとHP1γによるrRNA転写抑制機構の一般性を検討した。これまでの研究は主にヒト乳癌細胞MCF-7細胞株を用いて進めてきたが、本年はさらに難治性のtriple negative breast cancer cell line (TNBC) 乳癌細胞株であるMDA-MB-231細胞について検討した。その結果、この細胞でもKDM2AとHP1によるrRNA転写抑制機構により、グルコース飢餓依存的なrRNA転写及び細胞増殖が抑制が引き起こされることが明らかとなった。現在のところTNBCに対する有効な治療法は確立されていない。上記結果はKDM2AとHP1γ依存的なrRNA転写抑制機構の活性化がTNBC治療に応用できる可能性を示唆している。上記研究結果をまとめて現在論文として投稿した。
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