研究課題/領域番号 |
16K07361
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研究機関 | 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(岡崎共通研究施設) |
研究代表者 |
椎名 伸之 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(岡崎共通研究施設), 岡崎統合バイオサイエンスセンター, 准教授 (30332175)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | mRNA輸送 / 神経樹状突起 / RNA granule / RNG105 / Arf |
研究実績の概要 |
神経樹状突起へのmRNA輸送・局所的翻訳を担うRNA granuleの主要構成因子RNG105は、学習・記憶の他、精神疾患にも関与する重要なRNA結合タンパク質である。本研究では、RNG105のターゲット候補として見出されたmRNA(低分子量Gタンパク質Arfファミリーの制御因子であるGAP及びGEFをコードするmRNA 8種類)が、実際にRNG105依存的に樹状突起へ輸送され、シナプス形成、特に後シナプスであるスパイン形成に関わる可能性を明らかにする研究に取り組んでいる。今年度は、1)MS2システムで可視化したmRNAの細胞内局在化定量法の確立及び定量的解析、2)Arf GAP, GEFのノックダウンがスパイン形成に与える影響の解析を行った。 1)取得した画像のノイズ許容値を5段階に振り、その中央値を算出するという新たな方法により、RNA granuleに局在したmRNAのスポットを抽出・定量化した。その結果、Arf GAP mRNA群はKCl刺激依存的に、一方、Arf GEF mRNA群は非依存的に樹状突起に局在化することを明らかにした。このことは、Arf制御因子の種類や機能により樹状突起へ輸送されるタイミングが異なる可能性を示唆している。また、RNG105ノックアウトニューロンでは全てのターゲットmRNAの樹状突起局在が有意に低下することを定量的に示した。 2)各Arf GAP, GEFに対するshRNAを神経初代培養細胞に導入し、ノックダウンを行った。GFP融合型Arf GAP, GEFを指標とし、ノックダウン効果が十分であることを確認した。GFP共発現による細胞形態トレースの結果、Arfファミリーのうち、Arf6の GAP, GEFがスパイン形成に重要であることが示唆された。この解析により影響が大きかったターゲットmRNAに特に着目して今後解析を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、研究実績に記した1)Arf GAP, GEF mRNAの樹状突起局在化機構、2)スパイン形成に重要なArf6 GAP, GEFの特定、の2項目について新たな知見を得た。神経初代培養細胞におけるmRNA局在化の新たな定量解析法の確立は、今後のmRNA輸送解析等においても汎用性が高いと評価できる。Arf制御因子(GAP, GEF)のmRNAは、GAPとGEFとで樹状突起へのmRNA局在化機構が異なるという興味深い現象を明らかにし、さらに特定のArf GAP, GEFがシナプス機能に関与することを示した。これらの研究成果は、局所的翻訳が介する学習・記憶の新たなメカニズム解明への足掛かりになると期待される。以上の点から、本研究は順調に進捗していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、Arfファミリー制御因子のうち、特にArf6 GAP, GEFがスパイン形成に重要であり、そのmRNAはRNG105依存的に樹状突起に局在化することを明らかにした。従って今後明らかにすべき点は、Arf6 GAP, GEF mRNAを樹状突起に局在化させることがスパイン形成に重要か、という点である。今後は1)Arf制御因子mRNA群の輸送責任cis配列の同定、2)輸送責任cis配列のニューロンにおける欠損がスパイン形成に与える影響、の2項目について解析を進める予定である。 1)各mRNAの部分長について、MS2システムを用いて神経初代培養細胞での樹状突起への輸送を可視化・定量解析する。これにより、各mRNAの輸送責任cis配列を決定する。 2)Arf GAP, GEF mRNAをノックダウンした神経初代培養細胞に、1)で同定したcis配列を持つmRNA、あるいは持たないmRNAを発現し、レスキュー実験を行う。具体的には、①GFP共発現による細胞形態トレースを行い、スパイン形成に与えるレスキュー効果を定量解析する。②シナプス機能に重要なAMPA受容体のスパイン膜表面発現に対するレスキュー効果の定量解析を行う。②の方法として、AMPA受容体サブユニットの細胞外ドメイン認識抗体により、細胞膜表面AMPA受容体を検出する。別の方法として、pH感受性pHluorin-AMPA受容体サブユニット融合タンパク質を神経初代培養細胞に発現し、シナプス刺激後、pHluorinの蛍光タイムラプスイメージングによりAMPA受容体のエンドソーム-細胞表面間の移行を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、ノックアウトマウスを用いた実験よりも野生型マウスにshRNAを導入する実験を中心に行ったため、マウスの飼育・繁殖・系統維持に関わる経費の節減ができたことが主な理由である。 次年度は、遺伝子組み換え実験や神経初代培養に用いる試薬、プラスチック器具等の購入に使用する。また、神経初代培養に供するマウスの飼育及び系統維持に関わる動物施設使用料も必要であり、そのために使用する予定である。
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