研究課題/領域番号 |
16K07364
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
島田 敦子 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (20376552)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | medaka / zic1 / somite |
研究実績の概要 |
メダカ体幹部は、背側特異的に発現し、明瞭な発現境界をもつzic1/zic4によって背腹が仕切られている(Kawanishi et al, Development 2013)。本研究ではこのように体の背腹を一生涯分断するような大規模かつロバストなコンパートメント境界の形成メカニズムの理解を目指す。 昨年度までに、zic1 発現を可視化したトランスジェニックメダカ(zic1:GFP)を用いてzic1 発現境界の精緻化とともに出現する新規の細胞群を見出した。今年度はこの細胞群(Boundary cells)の機能を以下のように調べた。 zic1 発現境界の位置は水平筋中隔(魚類体幹部の背腹を分断するシート状の構造)の位置と一致する。Boundary cells挙動を解析したところ、体節が成熟するにつれて、数を増やしながら水平的に拡大してシート状の構造を形成し、からだの中心である脊索付近まで到達することがわかった。このことから、Boundary cellsは今まで由来が不明であった水平筋中隔の前駆細胞であることがわかった。 次に、ヘッジホッグシグナルの阻害剤であるサイクロパミンを用いてBoundary cellsの形成を阻害したところ、zic1 発現境界が正常に形成されず、zic1 の発現が腹側に拡大した。 さらに、Boundary cells の移動を魚類体節細胞の水平移動に関わることが示唆されているSDF1/CXCR4 シグナルをCXCR4 のアンタゴニストであるAMD3100 で阻害した結果、zic1 発現境界が乱れた。以上の結果から、Boundary cells は明瞭なzic1 発現境界の形成に関与することが検証された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度に発見し体節内の脊索付近で生じる新規細胞群が、水平筋中隔という体幹部にとって重要な組織の前駆細胞であることを初めて明らかにでき、しかもそれらの細胞がzic1発現境界の形成に関与することがわかり、本研究の目的が細胞レベルで半ば明らかにすることができたため。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、Boundary cells によるzic1 発現境界精緻化の分子メカニズムを解析する予定である。脊索から分泌されるソニックヘッジホックによって発現し、かつ細胞外に分泌されてソニックヘッジホック抑制因子として機能することが知られているhhipに着目する。神経管背側から分泌されるWnts がzic1 の発現を誘導することが前年度の研究で明らかにされたが、hhipがWnt8 シグナルの抑制因子でもあることが報告されており、hhipがboundary cellsで発現しているからである。具体的にはまず、zic1発現境界形成前後におけるhhip の発現パターンを詳細に解析する。次にhhip の機能を調べるために、CRISPR/Cas9 システムを用いてhhipノックアウトメダカを作成し、発現境界形成に対する影響を解析する。さらに、分子レベルでhhipがwntsと相互作用することを免疫沈降法によって調べる。以上により、Boundary cells で発現するhhip がzic1 発現境界の精緻化に必要な因子の一つであることを示す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度は、平成28年度以前に購入した試薬や、すでに研究室にある備品(共焦点顕微鏡やImarisソフトなど)を使用する実験が主であったため、当初予定よりも少額の使用額で研究を遂行することができたため。
平成30年度は、CRISPR/Cas9 システムを用いてhhipノックアウトメダカを作成し、また、免疫沈降法によって分子レベルでhhipがwntsと相互作用することを調べるため、比較的高価な試薬やプラスチック製品(水槽を含む)などを購入する予定である。
|