研究実績の概要 |
メダカ体幹部は脊索を中心として背側と腹側が大きくコンパートメント化している。特に背側ではzic1 及びzic4(zic1/zic4)が発現し、筋肉の形態や色素パターンなどの背側特異的な特徴を生み出す。興味深いことにzic1/zic4は脊索付近に明瞭で直線的な発現境界をもち、この境界は一生涯維持される(図1A; Kawanishi et al, Development 2013)。このように体の背腹を一生涯分断するような大規模かつロバストなコンパートメント境界はこれまで報告がない。本研究の目的は、どのようなメカニズムでこの境界が形成され維持されるのかを明らかにすることである。平成30年度はさらに研究を進め、HBSがzic1発現境界を作る分子メカニズムを以下のように明らかにし、その成果を公表した(Abe et al., Cell Report 2019)。 まず、神経管背側から分泌されるカノニカルWntsがzic1 の発現を誘導することをつきとめた。そこでカノニカルWnt シグナルの抑制因子で体節で発現する遺伝子を探索しhhip に着目した。メダカにおけるhhip の発現パターンの解析から、hhip はHBCs で強く発現し、CRISPR/Cas9 システムを用いてhhipノックアウトメダカを作成したところ、hhip ノックアウトメダカではHBCsは形成されるにもかかわらず、zic1発現境界の精緻化が異常になることがわかった。さらにhhip分子がカノニカルWntz分子と直接結合することを共免疫沈降法によって確かめた上で、hhipを発現させた培養細胞をWntレポータ細胞と共培養させると、Wntシグナル活性が確かに低下することがわかった。以上から、背腹中心に位置するHBCs で発現するhhip がzic1 の上流であるwnt分子をトラップすることでzic1発現境界が形成・精緻化され、最終的には自身が背腹を分断する水平筋中隔へ分化することで物理的バリアとして機能し、発現境界を維持していることが示唆された。
|