研究課題/領域番号 |
16K07367
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
前野 貢 新潟大学, 自然科学系, 教授 (10190315)
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研究分担者 |
加藤 尚志 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (80350388)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 骨髄球 / 両生類 / アフリカツメガエル / ミエロペルオキシダーゼ / 中腎 / 血球幹細胞 / AGM領域 / 尾部 |
研究実績の概要 |
ミエロペルオキシダーゼ(Mpo)に対するポリクローナル抗体を独自に作成し、これを用いた免疫組織学的な解析により、生後7日の幼生の中腎原基付近(成体の血球の分化領域)に多数の骨髄球が集積していることを見出した。これらの細胞は、移植実験の結果、腹部血島、背側部中胚葉とは異なり、尾芽に由来することがわかった。次に、新たに発見された骨髄球と、成体の血球の由来となっている背側側板中胚葉(DLP)由来の組織との関係を明らかにするため、種間組織マーカー(X. borealisおよびX. laevis間)を指標として胚組織の移植を行い、DLP由来の組織とMpo陽性細胞との位置関係を比較した。DLP由来の組織はほぼ全てがMpo陰性であり、その領域の正中線側に隣接してMpo陽性細胞がクラスターとして存在していた。従ってこれら胚体起源の異なる血球細胞は、分化の時期は異なるが、微小環境を共有していると結論された。 これまでに、X. tropicalisのゲノム情報を利用して、mpo遺伝子のフランキング領域をクローン化した。クローン化したDNAをミニマムプロモーターの上流に挿入し、GFPをレポーターとしてDNA(直線化プラスミド)を注入した初期胚でのGFP発現を調べた。その結果、フランキング配列-9998~-4647(約5kb)に、骨髄球特異的な発現を制御するエンハンサーが存在することが推定された。そこで、このDNAを精子核移植法により野生型X. laevisに導入し、トランスジェニックカエルを作成した。トランスジェニック個体と野生型個体のかけ合わせから生まれたF1個体の解析から、初期幼生の表皮に存在するマクロファージ様細胞がGFPを発現すること、後期幼生の腎臓、肝臓にはGFP陽性細胞が多数存在すること、これらの細胞とMpo陽性細胞の分布は一致していること、などが明らかにされた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H28年度、胚組織の移植実験の結果をまとめた論文が採択となり、新たな研究の進展のための基礎的な土台は完成した。新たな骨髄球集団の生理学的な役割を明らかにするため、VEGFシグナルの阻害因子、FGFシグナルの阻害因子などを利用して骨髄球の分化を阻害する予備実験をおこなった。これらの因子は骨髄球の分化を抑えることはわかったものの、骨髄球の分化以外にも胚の発生に影響を与えることが明らかになり、阻害剤の特異性が問題となってきた。従って、より厳密に骨髄球の分化のみを阻害するための手法の開発が急務である。今年度は新たな方法としてCRISPR/Cas9によるゲノム編集をおこなう予定であり、そのための準備をH28年度からおこなってきた。一方、mpoエンハンサーを利用したトランスジェニックF1個体が成体となり、様々な造血器官から、解析に十分な数の血球細胞が得られるようになった。十分なサイズの成体になるまで1年以上かかったため解析は遅れていたが、今後は成体におけるGFP陽性細胞の解析が進むと考えている。全体的にみると、計画に照らし合わせ予定通りに研究が進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
生後7日の幼生の中腎原基付近に集積するMpo陽性細胞の生理学的な意義を明らかにするため、骨髄球の分化を阻害することでDLP由来の血球の分化に影響があるかどうかに焦点をあてて検証する。今年度はspibをCRISPR/Cas9によるゲノム編集により欠損させる実験をおこなう。Spibのターゲット配列に結合するsgRNAおよびCas9 RNAを受精卵の前方または後方割球に注入する。24時間後、48時間後、胚を固定し、mpoの発現を指標に骨髄球の分化が抑制されるかどうかを調べる。Spib遺伝子に欠損が起きたかどうかをゲノムPCR法により確認する。効果を確認後、後方割球に注入した個体を初期幼生(7日齢)まで培養し、中腎領域の骨髄球の分布をMpo抗体により免疫組織学的に調べる。Spibの編集実験に加え、顆粒球の分化増殖因子であるGCSFの受容体(GCSFR)についても、同様の方法でノックダウンを試みる予定である。 mpoエンハンサーの支配下でGFPを発現するトランスジェニックガエルの造血器官(胸腺、脾臓、肝臓)、末梢血(白血球画分を採取)から血球塗抹標本を作成し、MpoおよびGFPタンパク質発現を抗体二重染色により比較する。同定されたmpoエンハンサーが胚、幼生、成体の全ての時期に機能しているのかどうかを調べる。トランスジェニックガエルの神経胚から、血球起源となる領域(TBまたはDLP)を野生型胚に移植し、異なる骨髄球集団をラベルしたキメラ個体を作成する。移植された組織に由来する骨髄球(GFP陽性細胞)を幼生期から成体期にかけて追跡する。TB由来の骨髄球が生後7日以降全身に広がって分布するようになるのか、あるいは特定の領域に集中して存在するのかの結論を出す。以上の実験から、TBに由来する血球前駆細胞が、幼生や成体のどのような骨髄球集団を供給しているのかを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた大学院生への謝金はとりやめた。一方、新たに追加で計画するゲノム編集実験に関わる物品を平成29年度に入ってから購入することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は、実験に必要な機器(遠心機の更新)、消耗品を物品費として計画している。この他、国内の学会への参加・発表を計画している。
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