研究課題
棘皮動物の成体外胚葉の起源を明らかにするため、ヨツアナカシパンのトランスクリプトーム情報を使って、ギボシムシの外胚葉遺伝子orthologsをPCRクローニングし、それらの発現をWMISH法によって解析した。ギボシムシとの発現比較から、ギボシムシ幼生外胚葉の吻先端、吻襟境界と襟胴境界が、それぞれヨツアナカシパン幼生の頂板外胚葉、羊膜外胚葉の予定歩帯領域と間歩帯領域に相当することを示唆し、棘皮動物に特有な体腔の再配列を分子的に説明した。ウニでは、幼生の左側外胚葉に由来する羊膜陥と水腔との接触によって成体原基形成が開始する。しかし、成体原基における外胚葉―中胚葉間相互作用の分子実体はまったくわかっていない。成体原基形成におけるFGFシグナル伝達の役割を明らかにするため、ヨツアナカシパンのトランスクリプトーム情報を使ってFGF リガンド遺伝子(fgf8/17/18, fgfa)と受容体遺伝子(fgfr1, fgfr2)を単離し、WMISH法によりそれらの発現パターンを調べた。さらにFGF 受容体の阻害剤であるSU5402 で処理した幼生の表現型と外胚葉と中胚葉マーカー遺伝子発現を解析した。それらの観察は、(1) 外胚葉 fgf8/17/18 が水腔中胚葉とそこでのfgfa発現を誘導すること、(2) 羊膜外胚葉でのfoxA, six1/2, hedgehog 発現は中胚葉からのFGFシグナル依存的であるのに対し、(3)otx 発現は未同定の中胚葉シグナルによって誘導されることを示唆した。
2: おおむね順調に進展している
半索動物(ギボシムシ)と棘皮動物(ウニやヒトデ)は姉妹群であり、三体腔性の幼生期を共有する。半索動物は幼生の体腔プランをそのまま成体へと引きつぐ。一方、棘皮動物は幼生の左側にできる中胚葉性の水腔および左後体腔とそれを被う羊膜外胚葉からなる成体原基の中で体腔の再配置とともに五放射体制をつくり、成体へと変態する。棘皮動物のこの特異なボディープランの進化は、未だに動物学の謎として残っている。当初、Hox遺伝子複合体の発現を調節する胚葉間シグナル伝達解明を目標としたが、ヨツアナカシパン成体原基の外胚葉・中胚葉マーカーの単離と、FGFシグナル伝達阻害剤処理幼生の表現型解析から、成体原基の起源と胚葉間相互作用の実体が見えてきた。この研究成果を動物学会と国際動物学会で発表した。
本研究の結果から、棘皮動物のボディープランの進化を幼生体腔プランからの変形と理解する道が開けた。さらに成体原基形成において、水腔形成とそれを被う歩帯外胚葉の特異化に双方向の胚葉間FGFシグナル伝達が重要な役割をしていることが示唆された。今後、fgf8/17/18とfgfaに対するモルフォリノオリゴ、CRISPR、shRNAを合成することによってヨツアナカシパン成体原基形成におけるFGF機能解析を行う予定である。
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Acta Zoologica
巻: 97 ページ: 102-116
10.1111/azo.12109