研究課題/領域番号 |
16K07369
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
黒岩 厚 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (20134611)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 肢芽 / 四肢骨形成 / Hox / 標的遺伝子 / 転写調節 |
研究実績の概要 |
(1)改良したChIP-SEQ法により、マウスE11.5肢芽におけるHoxa11とHoxa13の標的遺伝子候補を網羅的に探索し、両者に共通した1752座の遺伝子を同定した。Hoxa13の標的遺伝子候補のうち、我々がGeneChip解析でHoxa13, Hoxd11-13のdKO肢芽で発現変化を確認した遺伝子と対応させると、発現低下する遺伝子420座、発現上昇する遺伝子444座が該当し、これらがHoxa13による発現調節を直接受けている可能性が示された。これらのうち、Hoxa11の標的遺伝子と共通しているものが、Hox13dKOで発現上昇するもの96座、発現低下するもの77座が存在することが判明した。これらの中には、既に四肢骨形成に関与することが示されている、Aff3, Shox2等の転写因子や、シグナル伝達系を構成する複数の因子が見いだされた。このほかにも四肢軟骨形成における機能未同定だが、肢芽で特異的な発現を示す他種の遺伝子が見いだされ、今後の解析が期待される。(2)柱脚、軛脚骨形成に関与するホメオドメイン転写因子Shox2の既報の標的遺伝子について、今回明らかになったHoxa11と Hoxa13の共通標的遺伝子のうちHox13KOで発現変動する遺伝子のほとんどが共通することが判明した。これにより四肢骨形成過程が、位置特異的に発現する複数のホメオドメイン転写因子による共通標的配列を介した調節によって実現化していることが示された。(3)Bmp2, Aff3, Shox2等の一部のHox標的遺伝子について、HoxKO胚での発現変化を解析した。Bmp2については、dKOでの自脚先端部での発現消失、Aff3は自脚全体での異所的発現、Shoxについては、自脚の特異的な部分での異所的な発現が観察され、それそれが固有の様式でHox13による転写制御を受けていることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Hoxa11とHoxa13のE11.5肢芽におけるChIPSEQには成功し、以前からのデータとの照合を行いつつ、順調に解析を進めている。昨年10月に競合研究者が、我々と同様な研究について論文発表を行い、Hoxd13についてもChIPSEQを行って、Hoxa13と同様な結果を得ているため、我々が独立してHoxd13のChIPSEQを実施することは断念した。Hoxd13のChIPSEQを実施しない代わりに、競合のないHoxa11標的遺伝子の解析にウェイトを置くことにした。今後は、Hoxa11標的遺伝子とHoxa13標的遺伝子の比較や、共通標的遺伝子に対してそれぞれのHoxがどのような様相で発現制御を行うのか、という課題に絞る。受精卵凍結状態であった、Hoxd13が軛脚で異所的に発現して軛脚の短縮化が引き起こされるUlnaless系統の復活に成功し、現在胚の採取を行える状態まで繁殖が進んでいる。Hoxa13の標的遺伝子候補Tshz2, Bmp2, Mecom, Aff3, Auts2については、ChIPSEQで同定された標的配列のうち進化的に保存されたホメオドメイン転写因子結合部位を含む領域(HBSCE)をCRISPR/CASを用いて欠失させた(CisKO)系統の作製に成功し、現在戻し交配と予見的にホモ接合個体を採取する実験が進行中である。Hoxa11の標的遺伝子について、Hoxd11とHoxa11の二重欠失ホモ胚での発現変化を解析するため、共同研究でHoxa11標的遺伝子破壊系統を作製した。また、典型的なHBSCEのエンハンサー活性の解析について、レポーターアッセイをニワトリ胚肢芽への遺伝子導入により行うべく系を立ち上げ、Shox2HBSCEについては結果が得られつつあり、今後順調に展開させてゆく基盤が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
(1)新たにリストアップした、Hox13KOで発現変化を示すChIPSEQ標的遺伝子について、特に肢芽で固有の発現様式を示す転写因子、シグナル因子及び細胞接着因子約20種に注目する。これらについてHox13KO胚やUlnales胚での発現変化を解析し、Hoxa13とHoxd13の標的遺伝子発現制御における機能の差や、標的遺伝子発現変化とHoxKOでの骨パターン変化との関連について記載を行い、Hoxの機能について議論する。同様の実験をHoxa11標的遺伝子についてもHox11KOマウス胚を用いて展開する。(2)系統化しつつある5種のCisKOを用いて、これらについてのヘテロ、ホモ変異胚での遺伝子発現変化の解析や、HoxKO系統との交配を行って、胚の表現型や遺伝子発現変化の観察によりHoxとの遺伝的相互作用についての解析を行う。(3)申請課題とは独立して展開してきた、Fgf10の肢芽における発現を制御するエンハンサー研究の解析対象配列が、肢芽におけるHox11, Hoxa13の標的となっていることが明らかとなった。マウスTgを用いたこれまでの研究で、これらの配列の機能については多くの知見を得てきている。これらには進化的保存性の高いHBSが複数存在するので、HBSCE中のHBSの機能を解析するためにはたいへん準備状況の良いモデル系となっている。これらのHBSの機能をニワトリ胚へのレポーター遺伝子導入や、Hox転写因子の作用の解析などで明らかにする。またFgf10 HBSCEについてはCisKO系統も作製しているので、これらを用いて多面的な解析を実施する。
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