研究課題/領域番号 |
16K07370
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
内川 昌則 大阪大学, 生命機能研究科, 助教 (80346147)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 転写制御因子群 / 内耳 / エンハンサー / Sox8 / Sall4 / Sox因子 / 感覚器原基 / 胚発生 |
研究実績の概要 |
耳、眼、鼻などの感覚器は、共通の原基である頭部外胚葉から形成される。その特異化の機構の解明とその機構を駆使した感覚器細胞のプログラミングを目指している。胚発生の特異化の機構では、転写制御因子群が重要な役割を果たす。本研究では、転写制御因子群「Sox転写因子とそのパートナー因子」の機能に着目した。 本年度は、特に内耳特異的エンハンサーOtic1へのSox8とSall4の作用について解析した。これまで嗅上皮・内耳特異的エンハンサーNOP1/2の活性化に重要なSox2/Sox9とSall4の役割を明らかにしてきた。Sox転写因子とSall4によって活性化されるエンハンサーとして、新たに内耳特異的Otic1エンハンサーを同定した。Otic1エンハンサーは、NOP1/2エンハンサーと同じくSox転写因子とSall4によって活性化されるが、そのSox転写因子は主にグループE SoxであるSox8, 9によって活性化され、グループB1 SoxであるSox2, 3では活性化されなかった。またSox9による活性化では、Sall4を必要としないSox9のdimerによってin vitroでは活性化されたが、in vivoでは主にSox8とSall4による協調的な作用が重要な役割を果たしていることが、その活性化領域や遺伝子の発現から示唆された。このように内耳の初期発生では、Sox8とSall4の協調的作用が重要な役割を果たすことが示唆された。 Oticエンハンサーの活性化に重要な領域を調べると、Sox8とSall4が作用する領域以外に、少なくとももう一つの活性化領域が必要であること、また内耳以外の神経堤細胞における活性を抑制する領域が存在することが示唆された。それぞれの領域に作用する転写制御因子群も内耳特異性に重要である。今後これらの因子の内耳発生への役割も明らかにしていきたいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究によって、内耳特異的に働くエンハンサーにおけるSox因子とSall4の作用を明らかにすることができた。これまで嗅上皮・内耳特異的NOP1エンハンサーでは、グループB1およびE Sox因子がSall4と協調的に作用することで、その活性化に重要な役割を果たしていたが、内耳特異的Otic1エンハンサーではグループE SoxがSall4と協調的に活性化する。このように感覚器の発生過程でSall4は、協調的に作用するSox因子を切り替えることで、それぞれの感覚器の特異化を徐々に推し進めていくことが示唆された。また興味深いことに、グループE SoxのSox8とSox9でもOtic1エンハンサーへの作用に違いが観察された。Sox9は単独でもdimerを形成することでOtic1エンハンサーを活性化できる可能性がある。しかしin vivoではこの活性化機構はほとんど作用せず、主にSox8とSall4の協調的な作用が重要な役割を果たしていることが示唆された。これまでにグループE Soxは、dimerを形成して標的遺伝子を制御することが報告されているが、Sox8とSox9での違いは見いだされていなかった。今後は、これらの違いがどのように生み出されるのか?特にSox8とSall4による内耳発生への役割を中心に明らかにしていきたい。さらに、Otic1エンハンサーのその他の必須な領域との関連も調べたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
おおむね研究計画通りに推移しているので、計画に従って推進する。 感覚器プラコードの特異化の仕組みを明らかにするために、ES細胞の分化系を利用して、水晶体、嗅覚上皮、内耳プラコードの状態の細胞群をそれぞれ単離する。それぞれの細胞群に重要な転写制御因子群「Sox2とPax6(水晶体プラコード)」「Sox2/9とSall4(嗅覚上皮プラコード)」「Sox8とSall4(内耳プラコード)」の細胞分化における役割を明らかにする。方法としては、その標的遺伝子をChIP-seqを用いて解析する。これらを比較して、各感覚器プラコード状態の共通点と相異点を明らかにする。 感覚器プラコードの特異化の過程では、その形成を領域的に限定する阻害的な制御機構の存在が示唆される。水晶体プラコード特異化には、Wnt シグナルの除去が重要である。嗅上皮・内耳プラコードでは抑制的な制御(一部はZeb1/2, snail1/2 転写抑制因子群)によって、その特異性が担われることがこれまでの解析から明らかになった。抑制的な制御機構について、それぞれの感覚器プラコードの特異化における役割を明らかにする。 これらの結果を踏まえ、幹細胞を出発点とした転写制御因子群の操作による細胞分化の操作を目指して解析を進める。特に内耳プラコードから発生する内耳有毛細胞の再生に取り組む予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行したために、当初の見込額より消耗品などの物品費を節約することができた。また実験補助のための人件費を予定していたが、今年度は使用する必要がなかった。旅費も当初の予定より節約することができた。
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次年度使用額の使用計画 |
研究計画に大きな変更はなく、前年度の研究費も含め、当初の予定通り計画を進める。ChIP-seqはSox因子とSall4の転写制御因子の組合せが増えることで、サンプル数が増え、その費用が増える可能性があるので、前年分の研究費も合わせて実行していきたいと考えている。
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