研究課題
本年度は幼若ニューロンのアピカル突起の保持・乖離機構を明らかにすべく、細胞接着帯のダイナミクスを制御する低分子量Gタンパクの活性について検討をおこなった。Rhoファミリーに着目し、まず生体内でRhoAの活性を負に制御することがしられているRnd3について、ステージ15のニワトリ胚の脊髄にエレクトロポレーションによって導入し、1日後、2日後に回収して、あらたに分化したニューロン量を定量した。先行研究により、同時期のニワトリ胚の脊髄における神経分化、および神経前駆細胞の増殖の経時的変化が明らかにされており、分化・増殖の動的平衡の破綻による明確な表現型が期待されたからである。最終的に当初のステージを含む前後1日に渡るおよそ30検体について解析したが、ニューロンの産生量に有意な変化は認められず、組織形態についても統計的に有意な影響は確認できなかった。そこで、内在性のRhoAの活性を強力に抑制するドミナントネガティブタイプのRhoA(DN-RhoA)について同様の検討を行ったが、あくまで有意な影響は検出されなかったため、この実験系は当初の目的に不適であると結論した。そこで、定量的な解析結果はないものの、神経前駆細胞の増殖と分化の領域差がきわめて顕著なニワトリ中脳に材料を変更し、Rnd3、DN-RhoAの両者について検討を行い、現在ひきつづき結果を解析中である。次に、アピカル突起の脱着制御が接着帯の制御に依存していない可能性を想定し、アクトミオシンシステムによる突起先端の自切現象について検討をおこなうことにし、このシステムの制御に関わる因子の選定と、生体内での操作実験のための材料作成に着手した。
4: 遅れている
研究計画時に最有力視されたRhoファミリーGタンパクによる接着帯ダイナミクスの制御機構に関する解析結果がすべてネガティブデータであったこと、および脳組織構築における神経幹細胞の増殖・分化の平衡状態の重要性を示唆する先行研究に基づく実験系(ニワトリ脊髄)が、現実には実験操作に対する感受性が必ずしも高くないことが判明したことが主な理由と考えている。加えて、熊本地震による共通機器の復旧に時間がかかったため、ライブイメージングによる幼若ニューロンのアピカル突起の動態観察が、至適条件の検討を含めて大幅に滞ったことも理由である。
今後は、アピカル突起の自切現象に焦点を移し、Notchシグナル伝達、ニューロン産生のペース調節、および神経幹細胞の分化調節に果たす役割について重点的に解析をすすめる方針である。また、Rhoファミリーに関する検討は発生期の中脳に題材を移行し、背側部(視蓋)と腹側部(被蓋)の組織構築に神経幹細胞の分化調節が果たす役割について引き続き研究をすすめる。ライブイメージングに必要な機器類の復旧は完了しており、この件に関する28年度の遅れを取り戻すべく、精力的に実験を遂行する所存である。
熊本地震による実質上の実験期間の短縮、および機器復旧までの実験停止のため、物品購入の減少、研究補助員の雇用の中止、出張予定の中止等により予算執行に大幅な変更を生じたため。
被災機器の完全復旧をもって、昨年度見合わせていた実験計画を本年度中に遂行することなどにより執行予定額の消化を見込んでいる。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Cell Rep.
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Dev. Growth. Differ.