研究課題/領域番号 |
16K07377
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
小林 千余子 奈良県立医科大学, 医学部, 講師 (20342785)
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研究分担者 |
蛭田 千鶴江 北海道大学, 理学研究院, 研究院研究員 (20723018)
鈴木 隆仁 滋賀県立琵琶湖博物館, 研究部, 学芸技師 (60771285)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | マミズクラゲ / 性成熟 / 性決定 |
研究実績の概要 |
刺胞動物門ヒドロ虫綱に属するマミズクラゲは、淡水棲でありながらクラゲを放出する生物である。日本全国で夏場にマミズクラゲ成熟個体の発生が報道されるが、一つの池で一性別だけしか確認されないことが多く、その生物伝播や性決定に関して謎多き生物である。申請者は 8年前にマミズクラゲポリプを入手し、1個体から個体数を増やすことに成功し、さらに温度変化によるクラゲ芽形成の条件を確立した。そこで本研究では、実験室内で有性生殖世代を再現し(性成熟を引き起こし)、さらに核型解析による染色体情報やゲノム情報を得ることで、マミズクラゲにおける性決定が、遺伝的要因なのか環境的要因なのかの決着を付けることを目的として研究している。 2016年度はワムシを餌に用いた稚クラゲからの性成熟に挑戦した。その結果、ワムシを与える頻度や飼育の水深等を工夫することで、初めてメス池から採集したポリプから分化した幼クラゲの生殖腺が発達し、卵を持つ卵巣へと成熟した。 2017年度は オス池から採集したポリプから分化した幼クラゲをワムシを用いて飼育することにより、精子を持つ精巣が発生してくることを確認した。実験室での同一の環境、ワムシという同一の餌の条件下で、雌雄異なる性が発達したことから、マミズクラゲの性はポリプの世代ではすでに決まっている、つまり遺伝的要因である可能性が大きく示唆された。 2018年度は実験室内で性成熟させた個体や野外から採取してきた個体からの人工授精により、交雑株の樹立を試みた。卵割後、プラヌラ幼生からポリプへの飼育がとても難しかったが、2種類の交雑株を樹立することができた。また、メスの放卵の光条件が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2016年度の後半からの水カビの影響によるポリプ個体数の激減により、実験が停滞していたが、2018年度は個体数が回復した。また2017年度は野外のメス池でのクラゲの発生が見られなかったため、サンプリングが行えず、自然界での卵巣のステージングができなかったが、2018年は野外からのメス成熟個体が得られた。それにより、2018年は実験室内で性成熟させた個体や、野外から採取してきた個体から、精子やランを取り出し、人工授精することができた。その過程で、ランの放卵を引き起こす光条件をほぼ明らかにすることができた。また人工受精後、卵割~プラヌラ幼生からポリプへの変態と維持が非常に難しかったが、2018年は成功し、2種類の交雑株を樹立することができた。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は、2018年度に得られた交雑株ポリプから稚クラゲを発生させ、それを性成熟させることにより、雌雄比を調べたい。現在、ポリプの世代では雌雄がすでに決まっていることは明らかとなっているが、受精後からポリプに発生するまでの環境要因によって、性が決定されていることは否定できない。樹立した2種類の交雑株での雌雄比を調べることで、受精直後に性が決まる遺伝的要因なのか、受精後からポリプに発生するまでの環境的要因で性決定が行われるのかの最終的な結論がつくものと考えている。ただし、2種類の交雑株では検定としては数が少ないので、2019年度も受精時期を変えて、交雑株を複数樹立したい。 また作成したcDNAライブラリーから、生殖腺に関するマーカー遺伝子を単離し、in situハイブリダイゼーションの条件検討も行いたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2016年度後半から飼育していたクラゲポリプが、水カビの発生が原因で相当数減少してしまい、個体数回復までに時間を費やした。また2017年は野外でのメスクラゲの発生がなく、十分なサンプリングが行えなかった。よって当初の研究遂行計画が1年単位で遅れてしまった。 次年度はゲノム支援による、マミズクラゲのトランスクリプトーム解析を申請しているが、公募に採用されなかった場合、業者を介した解析を外注することを考えている。
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