研究課題
1. 倍加異常において生じる病理的アポトーシス耐性の制御点がん組織などある種の病理組織はアポトーシス耐性を獲得することがある。代表者は、倍化異常 (>2N) によりアポトーシス耐性が生じることを見いだしている。昨年度までの成果として、倍加異常細胞ではカスパーゼ抑制因子DIAP1の発現上昇と実行カスパーゼDriceの発現上昇が生じることをみいだしている。そこで、これら因子の発現変動がアポトーシス耐性に寄与しているかどうか検証した。その結果、DIAP1の機能阻害・Driceの強制発現により、倍加異常細胞においてもアポトーシスが生じたため、実際にこれら因子の発現変動がアポトーシス耐性に寄与している可能性が見いだされた。一方で、アポトーシス誘導頻度は低く、これら因子の発現変動のみでアポトーシス耐性を説明するのは困難であると考えられた。2. 倍加異常において生じる細胞状態の変化染色体倍加は、様々なトランスクリプトーム変動を誘導しうる染色体異常であり、分化異常・DNA修飾といった細胞状態の変化を生じさせる可能性がある。そこで、これら細胞状態の変化について各種分子マーカーを用いて調べた。倍加異常を誘導したショウジョウバエ翅原基において、位置情報制御をおこなうWg・Dpp・Hhの発現について調べたところ、区画境界における発現パターンには大きな変化は見られなかった。一方で、倍加細胞においては、発現レベルの上昇や低頻度ながら異所的な遺伝子発現が生じていた。DNA修飾の指標であるDNAのヘテロクロマチン化については顕著な差は見いだされなかった。
3: やや遅れている
平成30年度の研究計画は、倍加異常により生じる病理的アポトーシス耐性について、1)アポトーシス耐性の制御ポイントの検証と、2) 細胞状態の変化について検証を行った。1) においては、DIAP・Dcp-1の二つの因子のアポトーシス耐性への関与について検証した。実際にこれら因子がアポトーシス耐性に寄与している可能性は見いだされたものの、部分的なものであると考えられた。この点については、別の要因の存在が大きいと考えられるため、現在アポトーシス制御シグナルの基本的因子について発現レベルの変動について検証してところである。一方で、2) においては、倍加異常自体は組織のパターン形成・分化異常の大きな変化を引きおこさないものの、発現レベルの上昇や異所的発現がみられた。これらトランスクリプトーム変動とアポトーシス耐性との関連性については不明であるものの、これら制御シグナルはいずれも細胞の生存に関与する因子でありアポトーシス耐性獲得との関連が期待できる。以上のように、病理的アポトーシス耐性の遺伝的背景を明らかにするという、平成30年度の実験計画については予定通り進捗している。一方で、アポトーシス耐性を獲得するメカニズム (制御点・制御シグナル) については、未だ解明に至っていない。これらを考慮して、本研究計画は“やや遅れている”と自己評価した。
平成30年度の結果において、アポトーシス耐性への関与が期待されていたDIAP1・Dcp-1のみでは、病理的アポトーシス耐性を完全には説明できないことがわかった。そこで、これら因子以外のアポトーシス制御因子について発現レベルでの検証を行い、発現変動がみられる因子についてアポトーシス耐性との関連を調べる。また、細胞の生存・排除との関連がよく知られている、マイクロRNA制御について現在検証を行い始めている。特に、マイクロRNAプロセシング因子を抑制することで、倍加細胞におけるアポトーシス耐性に変化が生じるか調べる。また、倍加異常において生じる細胞状態の変化としてWg・Dpp・Hhシグナルの上昇がみいだされた。そこで、倍加異常を誘導した組織においてこれら因子の発現レベルを抑制したときに、アポトーシス耐性が失われるかどうか調べる。また、平成30年度結果においては、染色レベルにおいては顕著な変化は見られなかったが、DNAヘテロクロマチン化の抑制についてもアポトーシス耐性を抑制するかどうか検証する。これら遺伝子操作によってアポトーシス耐性が抑制された場合は、前述のアポトーシス制御因子の発現レベルについても調べ、これら発生シグナルの(異所的)上昇が、アポトーシス制御因子を直接的に制御しているかどうかを検証する。
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医学のあゆみ
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