研究課題
脊椎動物の始原生殖細胞が体細胞と相互作用しながら生殖巣原基へと移動する為の分子機構は、近年ようやくその一端が分かり始めたところである。研究代表者等はこれまでに、発生の解析が容易な卵生小型魚類の利点を活かして脊椎動物で初めてかつ唯一の系統的な順遺伝学的スクリーニングを行い、始原生殖細胞の移動に異常が見られる突然変異体群を得て解析を行ってきた。本研究課題では、これら突然変異体群の解析を更に網羅的に進めることにより、始原生殖細胞の移動に関る分子機構の複合的な側面を掘り下げて解明する。平成28年度においては、始原生殖細胞の移動に異常が見られる劣性胚性致死突然変異体naruto(cpsf6変異体)の遺伝学的な解析について、始原生殖細胞の化学誘引物質(ケモアトラクタント)として働くケモカイン(cxcl12/sdf1)の濃度勾配の形成には、mRNAの適切な転写後消失が関わっていることを示した結果を、原著論文として国際紙に投稿・発表を行った。平成28年度において研究代表者が所属を異動し、更に、本課題は10月に追加採択され研究期間が半年以下であった為に、当該期間においては実験機器や実験動物の移動と研究環境のセットアップに割いた労力が結果的に大きいものとなった。その為に当初計画分の、始原生殖細胞の移動に異常が見られる2種のメダカ突然変異体(kamigamo, shimogamo)の詳細な解析については、引き続いて次年度に行う。遺伝的連鎖解析によって、これらの2種の変異体の原因遺伝子が、それぞれヒトに奇形を生じさせる先天性小児疾患の原因として知られる転写調節因子であることをこれまでに突き止めている。
3: やや遅れている
本課題は、2016年10月の追加採択であった為に、研究の開始が遅れた。また、研究代表者の所属の異動により、動物や機器の移動と実験環境のセットアップに労力を要し、当初の計画よりも遅れが生じている。
始原生殖細胞の移動に異常が見られ、かつその原因遺伝子がそれぞれヒト遺伝疾患に関る転写調節因子として知られる2種のメダカ突然変異体(kamigamo, shimogamo)の解析について、以下を行う。・始原生殖細胞の移動期において、これら2種の転写調節因子が発現している場所を、ホールマウントin situ ハイブリダイゼーションによって明らかにする。・これらの転写調節因子が、既知のケモカイン関連遺伝子の発現制御に関わっているのかどうかを調べる。つまり、これまでに始原生殖細胞の移動への関与が知られている既知のケモカインとその受容体遺伝子、cxcl12a/sdf1a、cxcl12b/sdf1b、cxcr4b、cxcr7等について、各変異体胚におけるそれぞれの遺伝子の発現を、ホールマウントin situハイブリダイゼーションによって調べる。・先の大規模変異体スクリーニングにおいてshimogamo変異は1つだけが取れている。そこでshimogamo表現型の原因がこの転写調節因子であることを確認する為に、CRISPR/Cas9システムを用いてノックアウトメダカを作製する。当初計画では野生型ゲノムDNAを含むフォスミドクローンの注入によって、表現形の回復を確認することを計画していたが、最近のゲノム編集技術の急速な発展と簡便化の為に、この予定を変更する。・shimogamoのパラログは始原生殖細胞の移動に関わっているのか?:shimogamo遺伝子は哺乳類においては一つであるが、メダカを含む小型魚類ではもう一つのパラログが存在する。この遺伝子も始原生殖細胞の移動に関わっている可能性が考えられる為に、CRISPR/Cas9システムを用いてノックアウトメダカを作成してこれを確認する。
本課題が年度途中の追加採択であった為に、実施期間が半年以下であった。更に、研究代表者が所属を異動した為に、動物の飼育環境や研究環境のセットアップに労力を投入した。以上の理由により、初年度に計画していた実験の一部を次年度に繰り越し、その経費を次年度に引き続いて使用することとした。
初年度に計画していた実験を次年度に持ち越した為に、この実験に必要な試薬・消耗品や共同研究遂行の為の旅費の一部として使用する。同時に、初年度に引き続いて、動物の飼育環境や研究環境のセットアップの為に使用する。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件)
PLoS One
巻: 12 ページ: e0172467.1-21
10.1371/journal.pone.0172467
Scientific Reports
巻: 7 ページ: 43185.1-11
10.1038/srep43185