研究課題/領域番号 |
16K07384
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
日下部 りえ 国立研究開発法人理化学研究所, 倉谷形態進化研究室, 研究員 (70373298)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ヤツメウナギ / 形態進化 / 骨格筋 / 中胚葉 / 心臓 |
研究実績の概要 |
脊椎動物の頭部-体幹部境界領域では、複数の中胚葉系列(頭部中胚葉、側板中胚葉、体節)が互いに入り組み、首、肩、前肢、心臓などの複雑な構造が作られる。本研究では、このような中胚葉領域パターニングの進化的背景を探る目的で、実験発生学的なアプローチを進めている。材料の一つである円口類ヤツメウナギは、顎や対鰭などをもたず、祖先的な形質を保持した脊椎動物である。平成28年度は、日本産カワヤツメLethenteron japonicumについて、心臓形成および骨格筋形成に関連する遺伝子を単離し、in situハイブリダイゼーション法により、初期胚における発現パターンを調べた。また、体節の一領域である皮筋節および神経堤細胞の挙動を観察するために、Pax3/7抗体やミオシン抗体を用いた免疫染色も行った。またトラザメScyliorhinus torazameについても初期胚における遺伝子発現解析を行い、ヤツメウナギおよび羊膜類での知見と比較した。これらの実験結果から、ヤツメウナギの体節由来骨格筋とサメの軸下筋の分化タイミングを対比し、顎口類の軸下筋の多様化・複雑化の機序について考察した。一方で、個々の遺伝子について胚における機能を解析する必要があるが、ヤツメウナギとサメは人工的な環境での継代が不可能であり、トランスジェニック系統を用いた研究には不向きである。この問題点を踏まえ、受精卵において遺伝子操作(ゲノム編集)を行った個体そのものを用いて、表現型を観察する実験も行った。得られた胚のゲノムDNAを抽出し、配列を解読したところ、編集を行った領域が破壊されていることが確認できた。遺伝子破壊率は各個体でばらつきがあるが、高い確率で破壊が起こっている個体について形態の異常を調べた。特定の筋肉組織のみの分化が阻害されていることが示唆される結果が得られた。現在、組織切片を作製し、免疫化学染色による解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では希少な野生動物であるカワヤツメを材料とし、受精卵を用いた実験を行うが、ゲノム編集は初めての試みであるにもかかわらず、条件検討がほぼ達成できた。また、パートタイム補助者の雇用により、ヤツメウナギ胚、トラザメ胚の固定や染色を効率的に行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
最近、これまで利用していた北海道産に加え、新潟県や山形県産のヤツメウナギを入手するルートを見出したため、より多回数の授精が行えると考える。また、初年度に確立したゲノム編集と解析のステップを計画的に実施することで、より精度の高いデータを得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度には比較的高額な試薬の購入などを予定していたが、他研究費による購入分などで大半をカバーすることができた。また顕微鏡などの機器も既存のもので充足された。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度も、本研究課題に不可欠なルーティンワーク(魚類飼育、サンプリング、試薬調製など)を行う実験補助員(パートタイマー)を雇用し、解析の能率化を計る。また昨年度に引き続き、胚の顕微注入実験を行うため、より多くのヤツメウナギ成体を購入するほか、遺伝子コンストラクト作製に必要な試薬を購入する。
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