研究課題/領域番号 |
16K07385
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
仲矢 由紀子 国立研究開発法人理化学研究所, 生命システム研究センター, 研究員 (70415256)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 細胞遊走 / ニワトリ胚 / 中胚葉 / 細胞間接着 / 3D |
研究実績の概要 |
細胞の集団的移動は、個体発生や組織再生、疾患などへの関与が認められるものの、その詳細なメカニズムは十分に理解されていない。そこで本研究では、ニワトリ初期胚の中胚葉細胞の遊走をモデルとして、3次元で運動する細胞が、集団を形成して適切な方向に移動する機構を明らかにすることを最終目標とし、そのために必要な新規実験系の確立を行った。成果は以下のとおりである。1)ニワトリ胚のライブイメージング系により、発生初期における中胚葉形成過程を観察した。中胚葉は、原条が胚の長径に対して約半分の長さまで伸長した頃から、原条の周囲に同心円状に広がり形成される。組織はその後、前側、側方、後側にそれぞれ、約5μm/min、3.5μm/min、2μm/minの速さで胚全体に拡大することがわかった。2)各発生段階の中胚葉細胞における細胞骨格、接着分子、極性分子の発現解析を行った。3次元再構築画像から、中胚葉細胞のほぼすべてにおいて、間充織細胞に特異的なN-cadherinの発現が観察された。さらにα-catenin、β-cateninもまた、中胚葉細胞間の接着部位に局在しており、これらが細胞間の相互作用や遊走に直接的に関わることが示唆された。3)エレクトロポレーション法により、細胞の膜、核、ゴルジ体、アクチンなどをそれぞれラベルし、多光子顕微鏡を用いて中胚葉細胞の遊走過程を1細胞レベルで詳細に観察した。核のトラッキングから、中胚葉細胞は、約2-4μm/minの速さで原条から前側方に向かって移動した。またその遊走様式は大変興味深く、原条からチェーンのように繋がる集団を形成して遊走していた。集団内の細胞間接着は約1時間程度維持され、その後別の近傍細胞と再び接着し遊走していた。これまでに中胚葉細胞は、体内空間で個々で自由に運動すると考えられていたが、集団として動くメカニズムの存在が強く示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
発生初期の原腸陥入により形成される中胚葉は、エピブラストからEMTを経て形成される。その後個々の細胞は、原条を起点として遊走を開始し、それぞれがエピブラストと内胚葉層の間の空間内を移動することにより、中胚葉組織は胚全体に拡大する。しかしこの過程で、細胞が3次元の空間をどのように集合し、あるいは離散するのか、その動態や制御メカニズムは不明である。本研究では、まず、ニワトリ胚全体をライブイメージングで観察し、各発生段階により中胚葉組織がどのような形態や速さで拡大するかを明らかにした。また、核染色や各種抗体で染色されたニワトリ胚に対して透明化の手法を施し、タイリングによる顕微鏡画像取得とその後の画像解析から、組織切片をつくることなく、中胚葉組織を高精度に、三次元的に可視化することができた。これにより、中胚葉細胞の配列や細胞層、密度など組織構造と、さらに細胞レベルで接着、細胞骨格タンパク質などの局在が明らかになった。一方、ニワトリ胚のライブイメージングでは、透明度の低いバクトアガロースの使用、胚の表面に残存する卵黄、細胞内脂質などの成分からの散乱光によるノイズ発生等の問題があり、中胚葉組織深部の細胞1つ1つを明るく空間解像度よく観察するためには、従来の倒立型共焦点顕微鏡によるライブイメージング系では困難であった。しかし、従来の方法にとらわれないやり方の培養方法を考案し、また、多光子顕微鏡の活用により、すべての中胚葉層について時空間的な細胞運動解析が可能となった。以上のように本年度では、ライブおよび固定サンプルのイメージングを主体とした実験系の基盤が整備され、研究はおおむね順調に進行していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の推進方策としては、新しい画像解析技術と実験手法を導入して、研究を漸進的に進めていく予定である。主として以下の2つについて検討する。 (1)ライブイメージングによる細胞運動及び細胞極性の定量解析 本年度に取得した多くの画像データに関して、a)中胚葉細胞の核-細胞膜をラベルしたライブ画像について、三次元画像解析ソフトとさらにそれを拡張させた研究室オリジナルのプログラムを使って、細胞運動の定量解析を行う。b)核とゴルジ体がラベルされた細胞のライブイメージ画像から、核とゴルジ体の相対的位置関係を定量し、細胞極性の指標とする。固定サンプルにおけるGM130(ゴルジ体)とDAPI(核)のそれぞれの染色の画像データも同様に解析する。これらから、3次元多細胞環境下での細胞運動の方向、速さ、細胞間接着(相互作用)などの細胞挙動と極性をそれぞれ数値化し、集団運動の特徴を抽出する。 (2) ゲノム編集による細胞間接着因子のノックダウンと細胞遊走への影響 ニワトリ胚は遺伝学が使えず、これまでにモルフォリノアンチセンスオリゴ(MO)やRNA干渉の手法が使われてきた。本研究では、鳥類でではあまり例をみないCRISPER/Cas9のシステムを使って、細胞間接着因子のノックダウンを試み、中胚葉細胞の遊走に対する機能を明らかにする。これらに関しては、すでに着手しており、細胞挙動に関して興味深いデータを得ている。今年度ではさらに詳細な条件検討を行い、中胚葉細胞の集団運動における接着因子の役割を明らかにするとともに、ゲノム編集技術をニワトリ実験における有力な分子機能解析のツールとして確立させることを目標とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者が所属する研究室は、理論系の研究を行っており、分子生物学的な機器で備わっていないものがある。その中で、今年度はバイオフォトメーターとそれに付属するプリンターを購入した。さらに、画像解析で使用するパソコンとその周辺機器、および、画像の定量解析に関する図書などを購入した。予算はほぼ執行されているが、端数として30,000円弱が次年度使用額となった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の予算は、ニワトリ胚のライブイメージングおよびゲノム編集の手法による分子の機能解析に必要な消耗品等にあてる。また、当研究所では、観察に必要な顕微鏡は課金制となっており、それらの使用代金として予算を使用する。さらには、国内学会と情報収集、打ち合わせなどの旅費として使用する。
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