研究課題/領域番号 |
16K07385
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
仲矢 由紀子 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 研究員 (70415256)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 3D細胞集団運動 / ニワトリ胚 / 中胚葉 / 数理モデル / 定量解析 / N-cadherin |
研究実績の概要 |
本研究は、ニワトリ初期胚において中胚葉が形成される際に、間充織性細胞が3次元空間を集団的に遊走するしくみを定量的に明らかにすることを目的としている。前年度までに、移動中の中胚葉細胞は、N-cadherin等の接着分子により3次元的な細胞間接着を介して網目様の構造を形成することを見出した。平成30年度では、この網目構造の理解に向けて、位相的データ解析・パーシステントホモロジーと呼ばれる数学的手法を用いて、中胚葉細胞の核染色の画像から網目様構造を定量解析した。その結果、1個の網目は、10~20個の細胞から形成されており、これを1つの細胞集団と見做すことにした。次に、エレクトロポレーション法によりラベルされた核のライブイメージングを行い、移動する集団の各細胞の4次元的位置情報(フレームごとのXYZ座標)から、細胞集団挙動を示す統計的な解析系を構築し、正常細胞とN-cadherin機能阻害細胞の挙動を細胞集団レベルで比較した。その結果、正常細胞集団は方向(極性)を揃えて移動するのに対し、N-cadherin機能阻害細胞集団は、方向性は揃わず、移動の速度も正常細胞集団と比較して1/2まで低下し、明らかに正常細胞の集団とは異なる挙動を示した。さらに細胞間接着や細胞遊走の接触阻害(CIL)などを導入した数理モデルを構築し、網目構造や細胞集団挙動に関して、正常とN-cadherinの阻害の場合について実験データと同様の方法で定量解析した。その結果、実験から得られた結果とほとんど矛盾のない結果が得られた。以上より、一見してランダムな動きを示す中胚葉細胞は、網目構造という特殊な構造体を介して、周囲の細胞と運動方向を揃え、集団として効果的に移動しており、そのために、N-cadherinを介した細胞間接着が重要な役割を持つことが実験と数理モデルから示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中胚葉細胞の集団性を明確に捉えるために、網目構造の大きさを定量する解析系と、この大きさを基準とした細胞集団レベルでの速度、極性(方向性)などの細胞挙動に対する統計的な解析系が立ち上げた。これにより、細胞の集団性や、これに関連する分子の機能に対する定量的な理解が可能になった。さらに、今年度構築された数理モデルは、これまでに得られた実験結果を非常によく再現でき、また、シミュレーション上で、様々なパラメーター設定をも可能としている。従って、数理モデル上で考慮し、適応したパラメーターについてのみ、N-cadherin機能阻害実験で再確認するなど、実験と理論が相互に影響して、首尾よく研究が進行している。
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今後の研究の推進方策 |
数理モデルから、N-cadherinが細胞遊走の接触阻害(CIL)を介して網目構造に役割を持つことが示唆されており、これを実験で検証する。具体的には、阻害抗体を使った分子機能阻害の実験系を立ち上げ、N-cadherin抗体により、全中胚葉細胞においてN-cadherin機能が阻害された場合の網目形成の有無を検証し、数理モデルと比較検討する。さらに、細胞膜と核を標識したイメージングから、細胞間の相互作用を定量する実験系を確立する。これにより、N-cadherin阻害時の細胞間接触およびCILに関して定量解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題では、3次元細胞集団運動の新規メカニズムを、実験と理論の双方向から実証することを目的としている。これまでに、分担研究者による数理モデルの構築に時間を要したために、その点に関して、当初の研究計画より遅延した。しかし、その問題は解決され、現在、研究立案時に期待していた内容を卓越する非常に質の高い結果が得られつつある。2019年度は、追加実験の実施、海外での研究発表および論文投稿に時間と予算を費やしたいと考えている。
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