これまで、ライブイメージング画像の位相的あるいは統計的データ解析から、ニワトリ胚中胚葉細胞が、複数の細胞が繋がって網目構造を形成し、それをダイナミックに再編成させながら集団として移動すること、さらに、この集団内における協調した方向性や集団全体の速度は、N-cadherinによって制御されることを明らかにした。本年度は、以下の2項目について検討した。(1) 網目形成のメカニズムを明らかにするために、細胞膜を可視化し、網目形成に関わる細胞間の挙動を詳細に観察した。その結果、網目形成する正常細胞は、2細胞が衝突してから約30分間、細胞間の接着と解離を繰り返しながら同一方向に遊走するペアが多く観察された。一方、N-cadherinの機能が阻害された場合、衝突した2細胞は、一旦離れるとそれぞれが無方向性に移動し、その後は2度と接触することはなかった。以上より、N-cadherinを介した細胞間の持続的な相互作用が、網目形成に役割を持つことが考えられた。さらに接触阻害や接触誘引に着目し、細胞間相互作用の詳細なメカニズムについて検証している。 (2) 次に、網目構造と細胞集団運動の関係について検討した。中胚葉組織は、原条から連続的に細胞が供給され形成される。今回、発生段階の早い胚(HH3)とさらに発生が進行した胚(HH4後期)の中胚葉組織構造を比較した結果、後者では細胞が密になり網目構造が小さくなることが位相データ解析より明らかになった。さらに、細胞集団運動との関係は、網目サイズが小さくなるほど、集団全体としての速度は低下し、協調した方向性も失われる傾向が示された。今後、接着や極性などを考慮した細胞集団運動の数理モデルを構築し、網目の形成メカニズムと細胞集団運動に対する役割を理論的に明らかにしたい。
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